第7話 宮坂沙織と、お一人様認定と無駄な思索

 心の中でそう勝ちほこって? いや負け誇ってかw 感じた視線の先を見た。


 俺をさげすんだように見ていたのは、このクラスでは一番の美少女、宮坂沙織みやさかさおりだ。


 その黒目がちの目は大きめで、まつげは長い。


 スレンダーだが、胸はそこそこにでかい。


 つやつやとして、サラサラのロングヘアは染めてない自然の黒。


 短めのスカートから覗く足は、スポーツで鍛えたように太ももには張りがある。


 膝小僧ひざこぞうがつるんとしていて、その下のすねは長く、足首はきゅっと細い。


 一見愛嬌いっけんあいきょうがあるが、気分次第で人をジトッとした目で見下みくだす、そんな女子だ。


 俺が女子への耐性をなくしたのも、こいつのせいだ。


 つまりだ。

 二年生で初めてクラスが一緒になった時、俺は宮坂沙織に一目惚ひとめぼれしてしまった。


 俺の席は一番窓側の列で最後尾、その右前が宮坂だ。

 クラス最初の昼休みに、俺は彼女から声を掛けられた。


「授業中、あまり後ろからジロジロ見ないでよね、仲村幸太なかむらこうたくん」


 みんなの前で名指なざしでそう言われた。

 ここで

自意識過剰じいしきかじょうじゃね、見てないし」

 くらい返せたらまだ良かったんだが。


「ごめん」


 俺が言えたのはこれだけで、そのまま固まってしまった。


 しばらくジト目で俺を見つめた後、彼女は言った。


「それだけなの、、、きも」


 周りにいた女子から、くすくすと笑いがれた。


 男子たちの中には、


「女子、こわぁ」


 そんな声を漏らすやつもいたが、多くは、この事故現場をそっと見物していた。

 クラス初日の事故にまきこまれたくない。

 そう思われたようだ、多分。



 それからの俺は、宮坂を見ないようにしていた筈だが。


 何故に俺を蔑むように見ていた?


 俺は宮坂に向けた視線をすぐにらせた。



 丁度いい機会だから、これまで言ってなかった、固有名詞を紹介しようか。


 俺は仲村幸太、通学する高校は川北高校だ。



 宮坂の蔑む視線で、つい話がれてしまった。

 それじゃあ、話を戻そうか。


 2次元彼女の良いところは、何と言っても、主要キャラ全員の攻略が可能なことと、やり直しが効くことだ。

 現実では不可能だろw


 悪いところと言うか不満点は、触覚しょっかく嗅覚きゅうかく、体温が欠如していること。

 つまり手や胸に触れる感触を味わえない。

 つやつやした髪の甘い香りを嗅げない。

 ふれあいの温もりも感じられない。


 ああ、やっぱ3次元じゃないとダメじゃんか。

 俺はただ、2次元に逃げているだけの負け犬だぁ、だぁ、だぁ…


 つい取り乱したら、心の声が木霊こだましたようだ。一旦いったん落ち着こうかw


 ゲーム性という観点では、安心感の裏返しでスリル感が欠如してるな、2次元は。


 3次元の危険な香りは捨てがたいが、もう一度失敗してさげすまれるのはごめんだ。


 3次元から滑り落ち、2次元にしがみつこうとする、俺の夢想むそうはまだまだ続くが、またしても俺の本音が顔を出す(泣)


 あの柔らかそうな胸

 すべすべしたほお

 握り心地にぎりごこちの良さそうな手

 スカートからのぞくぴっちぴっちの足

 遠くから眺めるだけじゃなくて、できればこの手で触りたい…

 長いまつげ、くりっとした目

 その目で俺を見つめてほしい。


 やっぱ、3次元の女子が良い。

 本音を言えば、2次元より3次元が良いに決まってる(泣)


 涙ぐましい本音を隠して、女子耐性のない俺は、男子との友情を目指めざしてみたのだが、あの事故の影響があってか中々難しい。

 話をする友人なら一人二人くらいは居るが、どれも上っ面うわっつらだけで、親友、マブダチと呼べるような友は見つからない。


 そういう事情があって、授業が終われば、学校に用はない。

 俺は帰宅部きたくぶである。


 いつのまにか、お一人様認定ひとりさまにんていされているらしく、休み時間に一人思索ひとりしさくに走っていても、悲しいかな誰かに邪魔されることはめったにない。


 女子の問題はさておき、喫緊きっきんの問題はあいつだ。


 宇宙からやってきたフライ。アイツはハエ型アンドロイドなのか。

 次に会う時、あいつはどんな難題を押し付けてくるのだろう。

 フライたちに協力したら、本当に受験勉強を助けてくれるのか。

 協力の内容が、国家機密のスパイみたいだったら。

 協力を断ったら、この身の安全はどうなるのか。

 大事な家族の命は。

 あいつの能力は、どのくらいすごいのか。

 こっちが逆にあいつを利用することはできるか、その価値はあるか。

 自国と地球に利益となることはあるのか。

 逆に損失になることは。


 などなどと、この日の俺の休み時間は、目まぐるしく非生産的な思案に暮れた。


 ほぼほぼ堂々巡どうどうめぐりの繰り返し。


 結論は、次にフライと会うまで何も分からないということだった。

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