第90話 第一階層のガーディアン

第90話 第一階層のガーディアン


 キャシーの言った通り、14、5分歩くと、行き止まりのデッドエンドが先の方に見えた。


「着いたな、やっと」

「着いたわね!」

「着きましたね、遠かったぁ」

「ここよ、この奥に部屋があるの」


 皆口々にゴールに着いた感想を漏らした。



 近づいてみたら、そこは、ドアがあってその向こうに部屋という作りではなかった。

 これまで4m程度しかなかった幅が、どん詰まりでは3倍の12m幅になっていた。


 行き止まりに見えた壁は、幅も厚みも4mの角柱になっていて、その両側に4m幅の通路がL字型に続いている。

 つまりこの突き当りは、ほぼ一辺12mの正方形になっていて、そのど真ん中に一辺4mの角柱が立つ構造だ。

 そして角柱で塞いでいる丁度裏側に、高さ2m、横幅2mの口が開いていた。


 奥の部屋への出入り口が、高さも幅も2mで、中の魔物が外まで追って来れないのだとしたら、そのサイズは、縦横とも2mを超えるとか、とにかくここを通り抜けられない大物なんだろうな。


 その口からそっと覗けば、中が見えるし、一旦中に入ったとしても、すぐ元の通路にもどることができるだろう。

 なにしろ扉が無いのだから。



「じゃあ、とりあえず、俺が中を覗いてみる。

 ガーディアンが居なければ、皆で入るってことで良いな」


 俺は左側から、そおっと見える位置まで、頭を口の方へ突き出す。

 奥の方に壁らしきものが見える。結構広い。

 もう少し、前に出なければ左右の様子は分からない。

 右側からは、キャシーが中を覗き込んでいる。


「キャシー、あまり深入りしないで、俺の合図を待ってくれないか。

 俺には強化服があるけど、キャシーには無いだろ」


「まあ、そうだね、一番乗りはコウタに譲るにゃ」


 お、久しぶりに語尾にゃが出たよ。


 少しだけ前に出て、まず右の様子を見る。

 何も居ないな、事前のキャシーの情報通り、ガーディアンはたまにしかいない、今はどっかでお休み中なのだろう。


 次いで、左側を見る。

 こちらにも何も居ない。


 全体の部屋の広さは、一辺50M程度の正方形で、高さは7,8mほどありそうな空間だ。

 この空間の大きさを、振り向かずに三人に伝える。

 沙織としのぶだけが、おおっと声を出した。


 も、少し前に出る。

 奥の方に、魔法陣らしきものがぼんやりと光り始めた。

 どうやら、このスペースに片足でも踏み入れれば、魔法陣が作動開始する仕組みのようだ。

 床に光る円形図面は、二つ仲良く並んでおり、白い光、紫の光、と色の違いがある。

 それはキャシーにも見えたらしく、

「白い方が戻るやつで、紫のが第二階層への転移魔法陣だよ」


 白い方に乗れば、小広間に通じていて、出発点近くへ戻ることができるのか、俺の中ではその一択いったくだったが、今他の3人はどっちを選びたいのだろう。


「キャシー、5発ほどまとめて鉄球弾を中に打ち込んでみてくれるか」


「慎重ね、コウタは」


 あきれたという声を出しながら、キャシーは低い姿勢をとり、左手でスリングショットを構え、右手でゴムを大きく引く。

 チャンバーには、既に幾つもの球が込められていた。

 スリングショットで多弾纏ただんまとめ打ち!


「ガシャン、ガチャン、バラバラバラバラ」


 天井の真ん中辺りに向けて放たれた、5、6発の鉄球弾が天井で跳ね返り、左右の床、奥の方へと転がっていった。


 カサリと何か聞こえたような気がした。

 キャシーの耳も、左右で違った動きを数回繰り返した。

 気のせいだろうか、キャシーも特に何も言わない。


「じゃあ、俺が先に入ってゆっくり進むから、中央辺りで合図を出したら、みんな入って来てくれ」


「石橋を叩いてから渡るってやつですね、コウタさん」


「しのぶ、何言ってるの」


「あくまで慎重に事を運ぶっていう意味ですよ、姉さん」


「へえ、おもしろい言回しだね」と、キャシーが感心している。


 俺は左右に目を配りながら、一辺2m以上の、大物モンスターが居やしないかと、びくびくしならが中央へと歩む。


「腰が引けてるよ、みっともなぁい」と、沙織がヤジを飛ばして来る。


「もっとカッコよく歩いて下さい、コウタさん。

 キャシーがお腹抱なかかかえて笑ってますよ」

 しのぶのは、俺に対する応援、声援だろうか。


 まあ、さえぎるものもないし、俺たちには都合よくガーディアンが居ない時間かと、ヤジを聞き流しながら少し気がゆるむ。


 合図を送るために振り返る。

 合図を待たずに、キャシーが中に踏み出していた。

 続いて、しのぶ、沙織が警戒する様子もなく、すうっと入って来た。

 俺の血の気がさっと引いた。


「戻れ、来るな、待て!」


 俺は、人生最大限の大声を張り上げた。

 時既に遅し。

 最後に入って来た沙織の上に、巨大な黒いかたまりが、途中で脚を一杯に広げてふわっと落ちた。

 それはまるで、月面に着陸する探査船みたいにスロウで優雅な動きだった。

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