ハエと美少女姉妹

第13話 クモミン

　今日は金曜日だ、やっと週末、ぐうたらの俺は土日が楽しみだ。

　昨日のフライの話は気がかりだが、続きは後でする、今は忙しいｗ

　なんせ、学校から帰宅すると、うきうきわくわくの、タブレットPCが届いていたんだからな。

　ちょっと不思議なのは、これを誰が受け取って、俺の部屋に置いてくれたのか。

　それは謎だが、、、今は置いておこうかｗ

　コマキニ、コマキニ

　そろそろPCゲームにも飽（あ）きてきたし、iPadを中心に使っていこうかな。

　棚（たな）ぼたで手に入ったことだしな。

　俺はウキウキだｗ

　それにだ、これはバイトだ。

　午後５時から８時までは、月一万円のバイトだ。

　だから早く初期設定を済ませ、使える状態にしておかなければならない。

よって、今は忙しいｗ

　タブレット専用スタンドや、Bluetoothキーボードまで一緒に注文してくれるとは、気が利くなw

　初期設定は、少し時間がかかったが、何とか完了。

　なんかいつもより、通信速度が超早くなってる気がする。

気をよくした俺は、アプリを幾つかインストし始めた。速度超はえー。ハエ？

　おや、いらだちの気配というか視線というか、何かを感じるな。

　今日は、タブレットの立ち上げで時間がかかるだろう。

　フライは俺の能力を過小評価しているらしく、そんな理由で、フライとの仕事はお休みになった筈だが。

　PCがブツブツピを始める兆候（ちょうこう）は、今の所感じられない。

フライは約束を守るとは思うが、念の為、PCのコンセントを抜いておこうかｗ

　では、この視線は何だ。

　何の気無し（なんのきなし）に、後ろを振り返ると。

　俺のすぐ後ろ、頭より少し高い所に、天井から糸を垂（た）らしてぶら下がってる、小さなクモがいた。

　スパイ２号か、　それともふつうのクモか。

　何か手足をバタバタさせている。

　その時、俺のiPadから音がした。

『ヒュンヒュンヒュンヒュン』

　そのUFOみたいな、奇妙な音と共に、画面がホワイトアウトした。

　スリープモードなら黒くなる筈だが。

買ってもらったばかりの俺のiPadよ、もう壊れたのか！

　PCなら、突然のホワイトアウトは、最悪な故障を意味する。

　そう嘆（なげ）いたのも、つかの間、一瞬、虹のような光が差した。

　そして、タブレット画面は、手足をばたつかせる、クモの全身像に占拠（せんきょ）されていた。

「もうぉ、遅いよ、コウタ君。

　今か今かと待ってたのに、やっと使えるようになったと思ったら、今度はゲームとかアプリのインスト始めるし。

　バイトの時間は、きちんと守ってよね」

　拗（す）ねた女児がダダを捏（こ）ねているようだ。

　確かにバイトの時間中のゲームのインストは、サボり認定されても仕方がない。

　俺は本体にあやまろうと、振り返った。

　糸を垂らした先の、クモちゃんは、そこからぴょんと跳（と）んだ。

　うわ、肩に飛び乗ったぜ。

　思わず払おうとしたが、やめておいた。

　そう言えば、クモって、追いかけると、

ぴょんぴょんと、ジャンプしながら逃げるよな。

　結構すばしっこいんだよ。

　飛びついてくるヤツは滅多（めった）にいないが。

　そのクモは、俺の肩から、タブレットの上端にジャンプした。

　よくそんな狭い所に止まれるなと、俺は感心して観察する。

　大きさは６，７ミリと小さい。

　フライは１センチほどあるから、一回り小さいな。

　12インチの画面の方でじっくり見ると、頭部の真ん前に大きな目が二つ、その両隣（りょうどなり）にも一つずつ。

　あれま、側面にも二つずつ、全部で８個もあるよ。

　大きいのは前面の２個だけで、つぶらでオニキスのように綺麗な黒だ。

　本体の方に手を伸ばすと、さっと横に避（よ）けやがったぜ。

　画面のオオグモも、動きが本体にリンクしている。

　どこにカメラがあるのか、ほんと不思議だ。

　小さな本体の動きは、ユーモラスでかわいらしい。

　これなら飼ってやってもいいかなｗ

　俺もユーチューブで一儲（ひともう）けってかｗ

　俺は、小物体（しょうぶったい）に声をかける。

　謝罪は忘れたｗ

「フライは、今日はお休みだと言ってたけどな。

　今日は有給休暇じゃなかったのか」

「ちがいますぅ！」

　可愛らしい声で、そう言われると、俺は弱い。

「へいへい、ごめんなさい。

　ご用件は何ですか」

「まず名前をつけて欲しいんですよね」

「スパイ２号では」

「それは、フライ君がつけた仮の名前です。

　ネーミングセンスがないんですよ、あのひと。

　あのハエと言ったほうが正しいですか、日本語的には」

　ううん、どっちが正しいのか、俺にはよく分からなかったが、擬人化（ぎじんか）？してるなら、『あのひと』の方が違和感（いわかん）ないかな。

「ここでは、あの人とか、彼とか、あのハエ野郎とかで良いと思うよ」

「口が悪いんですね、コウタさんは、ダメですよ」

　ハエトリグモは、前足の２本で☓のポーズをみせた。

　おしゃまな女児に窘（たしな）められてしまったぜ。

「スパイ２号の由来（ゆらい）は何さ。

　諜報員（ちょうほういん）２号ってことかな」

　クモちゃんは、前足を高く上げて、ブンブンと振った。

「ぜんぜん違います。

　クモが英語でスパイダーだから、スパイで良いだろって言ってました」

「フライも、ハエの英語だしな、そのまんまかｗ」

「１号さんも、３号さんも、内心では名前が気に入らない筈ですよ」

「３号か、そいつはスパイのままでいいだろ。１号は知らんけど」

　昨日の話だと、俺の平穏（へいおん）を売りやがったのは３号ということになるからな。

「１号、　３号はどうでも良いです。　あたしの名は？」

　せかされたので、俺は単純な思いつきを口にする。

　「君の名は？　クモコで」

　ハエトリは、また☓のポーズを取る。

「それはイヤです！

　あんなに大きくて、自分よりさらに大きな奴らを殺しまくって、食い尽くしてしまう、

あぁんな蜘蛛（くも）の化け物と、同じ名前なんて、まっぴらごめんです」

「馬場翁先生にあやまれ！

　おまえ、全国の蜘蛛子（くもこ）ファンを敵に回すきか」

　　　　（注：　馬場翁先生は「蜘蛛ですが、なにか？」の原作者さんです。　）

　フライはラノベ好きで、こいつはコミックかアニメ派なのかな。

「ごめんなさい。でも別の名前でヨロ」

「かわいいものが好きなのか、おまえ」

「かわいいは、最強です」

　俺は思案する。

「クマノミ知ってるか」

「あの、キュートな海水魚なら大好きです」

「じゃあ、クモノミで。でなければクモミで。この二択（にたく）だからな」

「クモノミ、、、やっぱり可愛い呼称は３文字ですよ。

　クモミで、、、良いです」

　なんか不満そうだな。

「４文字だけど、クモミンてのもかわいいぞ」

「それにします！

　今日から、あたしはクモミン」

　ちょいと長くなってしまったので、昨日のフライの話は、また後でゆっくりと話すことにしよう。

　ごめん。