アメリカ軍の目的
月宮が電話を終えて俺らに向き直る。
「ダンジョンの前にあんた達に行ってもらいたいところができたわ」
地獄へ、とか言われそうで怖い。
「アメリカ軍の掃討作戦よ」
先日リンメイを襲撃したアメリカ軍の隠れ家が見つかったそうだ。
「あんたが取り逃がした男、ジョージっていったかしら? 諜報員がそいつを見つけて尾行してたんだけど、やっと隠れ家に行ったみたいね」
あー、あのちょっと軽い感じの傭兵か。
「連中の拠点は、今回見つけた実行部隊の隠れ家と、まだ見つけていない本拠地があると思われてるわ。おそらく本拠地の方もすぐに見つかると思うと報告があったわ」
まずは隠れ家の方を叩くのに、直接関わった俺らが行けばいい、と月宮が言う。
そういうことなら行ってもいいか。
「行くアル。ジョージにクリーニング代請求するアル」
まだ言ってんのか。
「実行部隊の規模はどんな感じなんですか? 僕達でも大丈夫かな」
ラファエルの疑問に月宮は「大丈夫じゃない?」と答える。
実行部隊は十人ほどで、異能持ち、というより人造人間にされた連中が数人いると見込まれている。
「そんなにいるの?」
「ジョージを尾行していた諜報員も協力するわ。黒崎は知ってるわね。青井よ」
青井さんか。しばらく本部で見ないなって思ってたら。
「強いの?」
「多分俺の三倍は強い」
青井さんは戦闘には消極的な人だけど、いざ戦うとなったらあれこれ手を尽くしてくれるはず。
「奴らが言う『ジャパニーズ・イクスペラー』は陰陽師のことよ。魔術師とカテゴライズされる魔法使いの能力は判ってきているのだけど、奴らにとって陰陽師はまだ未知の領域なの。だから、陰陽師を連れて帰って研究しようという算段のようね」
陰陽師は同じ魔法でも「符術」――「まじない」らしい。あと大きな違いは「式神」の存在だな。自分のMPをプールしたり、自分に代わってダメージを引き受けたりできるみたいだ。上位の式神になると人語も解するし意思もあるんだとか。
「だからリンメイをさらおうとしたアルか。けどまだ式神も使えないアルよ。見当違いもいいところアル」
能力がなくても、ダンジョン探索の当事者として話を聞き出したかったんだろうな。ジョージもそんなこと言ってたし。
「連中の生死は?」
俺の質問に亜里沙やラファエルが驚いてこっちを見てくる。
「できるだけ生け捕りだけど、こだわらないわ。作戦実行部隊よりも本部の連中を捕まえたいのよ。だから殺してもかわないわ」
「了解した」
月宮の返答と俺の相槌にさらにぎょっとなってる。
「黒崎君、最初から殺す気満々なのはどうかと思うんだけど」
ラファエルが少し非難めいた声で言う。
「手加減しないといけないのと、手加減しないでいいのとでは、ミッションの難易度がかなり違うからその確認だ。おまえ、いつも全力で魔法撃ってるけど、生け捕りにしないといけないから加減しろって言われたら、どうだよ?」
指摘するとラファエルは考えて、うん、判ったとうなずいた。
「できるだけ人間同士で殺し合いなんてしたくないよね」
「そりゃそうだ」
亜里沙にうなずいた。
俺は亜里沙より赤の他人の、しかも敵対者の命についてあんまり重く考えてないから、多分殺すことになったとしてもそれほど心は痛まないけれど、それは言わないでおく。それこそ嬉々として人殺しをするヤツだなんて思われたくない。
「話はこれだけよ。行ってきて」
美坂さんの襟首をしっかりと捕まえたまま、月宮が命じた。
月宮に教わった地点に向かう。
林の中にぽっかりと空いたスペースに、廃工場があるそうだ。
念のために少し迂回して向かう。
建物の後方十メートル辺りで、青井さんが景色に溶け込んでる。日本人のわりに長身で目立ちそうなのに、さすが諜報の世界で長く生き残ってるだけあって目立たない。
「こんにちは青井さん」
「やぁ黒崎くん。パーティのみんなも、よく来てくれた」
青井さんは建物から目を離さず、口の端を持ち上げてこちらに軽く手を振った。
「優しそうな人だね」
亜里沙がこっそり耳打ちしてくるのに、うなずいた。
「どんな感じですか?」
「おそらく中には十人弱、いるな。ジョージと他に人造人間が二人、あとは普通の戦闘員だがなにせ軍人や傭兵だからね。強いと思うよ」
建物は縦十メートル、横三十メートルぐらいだろうか。廃工場なので中には連中の生活物資以外に動きを阻害するものはあまりないと思われる。
「君達が迂回して来てくれてよかったよ。監視カメラとか、仕掛けてるはずだし。連中は用心深いよ。俺達の尾行に気づいているそぶりはなかったのにジョージもなかなかここに戻ってこなかった」
数日間、ずっとペアの人と二人で尾行し続けてたらしい。大変だっただろうな。
「さて、どうやって制圧するかだが――」
そこではじめて俺らに顔を向けて青井さんが言う。
「俺の技が完成するまで、君達には連中の気をひいてもらいたい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます