改めて気づくすごさ

 大きく膨れ上がる魔力に炎が宿る。直径数メートルはある巨大な炎の塊が、俺らの中心に投げつけられた。轟音をあげ爆ぜる炎は、大きな火の塊となり撒きあがって降り注ぐ。


 こいつの魔法、炎より氷の方が嫌なデバフがついてたはずだ。

 スキルでの完全回避は万が一、氷魔法を撃たれた時に残しておいて、この攻撃は自力で回避だ。


 びゅんびゅん飛んでくる火の塊を見切り、跳びあがり、体をそらし、ひねって、着地した。


 ……おぉ、奇跡的にHPを削ぐほどのダメージはないぞ。かなり熱かったけど。


 炎の攻撃がおさまりあたりを見る。

 亜里沙もうまく難を逃れたようで平気そうな顔だ。

 ヘンリーは鎧と盾が光ってるから防具の特殊能力でダメージを防いだか。

 魔法組は、さすが魔法防御に長けているからさほど食らってないようだ。

 ジョージは……、ちょっと痛そうだなぁ。


 続けて次の魔法の詠唱に入るマジシャンだが、させるかよっ。

 『崩壊の赤眼』を発動させて確実にとどめを刺しに行く。急所を深々と刺し貫くと、断末魔の悲鳴を上げて消えていく。


 残ってるのは、両手ブレードのル・アディンが二体と、ロケットパンチのルベルクーダだ。


 今の位置取りは、部屋の奥の中央にルベルクーダ、その斜め前に俺と亜里沙、俺らの十メートル横にジョージとル・アディン一体いる。部屋の中央にヘンリーとリンメイ、彼らの近くにもう一体のル・アディン、さらに後方にラファエルだ。


 あ、単体のル・アディンが移動してジョージのいるところにワープした。

 じゃあそいつらはジョージに任せるとして、俺らはルベルクーダのところに向かおう。


 ……って、すぐに到達できないのがめっちゃ面倒だが。


 ルベルクーダが重々しい機械音をたてながら腕を持ち上げる。狙いは、まだどこかはっきりしないが、射程内の一番遠い所、だっけ。


「ジョージさんも早くそいつらやっつけてこっち来るネ」

「こいつらの足止めをできているんだから、よしとしてくれよ。二対一なんだから」

「あんたは回避アルからかわせるのは当然ネ」


 何気にひどいな。


「せめて人扱いしてくれー」

「人造人間だから物アル」


 とか掛け合いしながらリンメイの阻害魔法がかかった敵をジョージが倒してるんだからいいコンビだよ。


 さて、やっとデカブツの近くまで移動できたから俺らも戦闘開始だ。

 って、こいつ動き鈍いから攻撃当てるの簡単だけど、やたら硬い。

 『崩壊の赤眼』を使って弱点を切っても、体力無尽蔵かってぐらいケロっとしてる。HPバーが減ってるのがバイタルメーターで見えなけりゃ心折れるレベルだ。


「それじゃ、これでどう? 『裂光剣』闘気増し増し!」


 おぉっ、ルベルクーダのHPがごっそりと減った!

 だが構えていない片腕の攻撃を避けた亜里沙が飛び退ると、少し離れたところにワープしてしまった。


 そこへ本命の攻撃とばかりにルベルクーダのロケットパンチが飛ぶ! 追尾機能があるらしく一度回避してもターンして攻撃し続ける。

 亜里沙はひょいひょいと回避し……、一度なんか危なっかし気な足取りになったけどなんとかそれもかわして、腕はまたルベルクーダに戻っていく。


 亜里沙がまたワープ&ワープで部屋をさまよっている間に俺はルベルクーダに攻撃し、ジョージと、衝撃波が飛ばせるヘンリーがル・アディンを相手にしている。リンメイは彼らの補助で……。


 ん? ラファエルは?

 さっきまで彼がいた部屋の入口付近を見るが、姿はない。


「えぇと、ここからどう行けば……」


 ラファエルの声が部屋の奥からする。

 部屋の左手奥にモニュメントがあって、その前にラファエルがいる。


「あー、下手に動くよりもうそこにいてくれ。もうすぐ終わる」


 言いながらルベルクーダに攻撃する。再び合流した亜里沙のとどめの一撃で巨体を誇る魔物は消えていった。


 ほぼ同時にジョージのブレードもル・アディンを切り裂く。


 敵よりも部屋の仕掛けの方が難儀だったな。


 魔石を分配して部屋を調べる。

 HPとMPの回復パネルがあった。

 部屋の一番奥には稼働中のモニュメントと、メッセージカプセルだ。

 おそらくリアのメッセージだろうな。


 もう追いつけないだろうと思いつつ、追いつければ助けられると、思ってたが。

 富川さんの見立てでもおそらく亡くなっているということなら、駄目なんだろう。


 そう思うと今までとちょっと違う気持ちで再生する。



『すべてを解読できたわけではないけれど、判ったことを残しておく。やはりこの遺跡は何かとんでもないものを封じ込めているみたい。ここまで大掛かりな封印をしないといけない化け物を。そして、その封印が解かれようとしている』



 この人は単独でここまでもぐってきて、しかも異世界の文字まで解読して……。

 すごい人だったんだな。


「わたし達と同じタイミングでここに来てたら、助かったのにね」

「そうだな。作戦本部の願ってもない戦力になっただろうな」


 しんみりとした空気が俺らパーティの間に流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る