敵の手に落ちた友を助けるには

 四人とも自我が見られない。目に力がない。命じられるのを待っている、ともとれる。もしそれが正しいなら吸血鬼の命令をといったところだろうか。


 聖の友人、江崎は西洋剣を持っている。グリップが細く。つばの真ん中に宝石なのか、丸い乳白色の珠がある。

 リンメイの友人、アカリと、ヘンリーのシスターは武器を持っていない。

 そして立浪さんは、青白い肌と赤黒い瞳からして、ヴァンパイアにされたのか。彼も武器は持っていない。


「さぁみなさん、目の前の敵を倒しなさい」


 ヴァンパイが命じた。

 江崎は剣を構え、アカリとシスターは体が変化し始める。アカリは虎に、シスターは狼へと顔が変わる。体も一回り大きくなった感じだ。

 立浪さんは手を広げて構え、長く鋭い爪をこちらに向けて歯をむき出しにする。犬歯が伸びている。やっぱり、ヴァンパイアになったのか。


 どうすればいい? 彼らを助けることはできないのか?

 考えを巡らせる俺に、俺らに、友人達が襲い掛かって来た。


「みほちゃん、やめて!」

「アカリ! 正気に返るアル」

「メアリーさん、落ち着くのです」


 皆がそれぞれに呼び掛けるけど、まったく聞いている様子はない。


「ヘンリーはリンメイを守って二対二で。聖は江崎を食い止めろ」


 一つ、思いついた。

 江崎は剣を、アカリとメアリーは彼女達を操っている獣の方をどうにかすれば、まだ助けられないか? と。


 ちらりとヴァンパイアを見る。

 天井近くに浮いて、笑みを浮かべてこちらを見ている。本人は攻撃をする気はないらしいな。これ以上相手が増えたら困るから、今はその余裕な態度を良しとしておく。


「黒崎君……、エンハウンス様に逆らっては、いけないよ」


 立浪さんが力ない声で言う。


 ヴァンパイアはエンハウンスって名前らしい。


 立浪さんをどうにかできるかは、とにかく三人を倒してから考えよう。


「弱点をさらけ出せ。『急所看破』」


 まずは江崎。人間の急所の他に、剣のつばの宝石が赤い点に包まれた。


「聖っ、つばの宝石だっ。あるいは気絶させろ」


 次はアカリとメアリーだが、急所が多すぎる。


「友を助ける力を。敵だけの弱点を見せてくれ」


 獣の弱点だけを見つけ出すイメージで、目を凝らす。

 MPがさらに減るとともに、見えている赤い点と線が減った。


 が、彼女達を注視しすぎた。立浪さんの爪が肩から胸へと食い込んだ。

 痛い! なんて鋭い攻撃だ。


「くろちゃき! 大丈夫アルか?」

「あぁ。……アカリは、右脇腹。メアリーは、左のこめかみ。できるだけ、打撃で」


 痛みに歯を食いしばりながら、それぞれの弱点を伝える。

 リンメイの防御魔法を頼りに防戦一方だった二人も反撃に転じ始めた。


 あの三人は、多分それで大丈夫なはず。これで駄目なら、どうしようもない。


 問題は立浪さんだ。

 魔物や剣に操られているであろう三人とは違う。

 ならば気絶させて、本部に連れて帰って月宮さんに相談するしかないか。


「傷ついた体を癒せ。『治癒の流れ』」


 リンメイから回復魔法が飛んできた。優しく流れる水のような力に傷が癒される。ありがたい。


 俺も前へ出る。幸い、体術もそれなりに鍛えている。元々荒事には無縁だったはずの立浪さんの攻撃ぐらいは対処できる。

 胸元に伸びてきた手を掴んで、脚をかけて投げる。仰向けに倒れた立浪さんのみぞおちに肘を落とした。


 悲鳴にもならない声を漏らして、立浪さんが意識を失う。


 他の状況を見る。今助けに入れそうなのは、聖のところか。

 つばぜり合いをしながら聖は江崎に声をかけ続けている。

 江崎の背中に拳を入れる。一瞬、力が抜けた江崎を聖が押し飛ばした。


 チャンス! 短剣を抜いて突き出す。狙い通りつばの真ん中の珠に命中した。

 びくりと江崎の全身が震える。聖が剣をひと振りすると、江崎の剣が手を離れた。


「みほちゃん!」


 倒れる江崎を聖が抱きとめる。

 剣を遠くに蹴り飛ばして、これで大丈夫だと思いたい。

 あとはリンメイ達に加勢して――。


「黒崎くん! 危ない!」


 聖の声と目線で後ろから危険が迫っていると気づくが、遅かった。

 気を失っていたはずの立浪さんが掴みかかってきていた。


 腕を掴まれ放り投げられる。壁に激突した俺の首を立浪さんの手が掴んで、絞める。

 ひとかけらの躊躇もない。あっという間に息が詰まる。


 空いている手で立浪さんの腕を掴んでも、少し緩まるだけで引きはがせない。


「黒崎くん!」


 聖が江崎を横たえさせてこっちに来ようとしている。


「だめだ……。来るな……」


 江崎のそばを離れたらエンハウンスに連れ去られるかもしれない。

 意図は伝わったみたいで、でも、どうにかしたいというように聖は江崎と俺を見比べている。


 どうにかしなければ。

 でも、どうすればいい? 


 リンメイやヘンリーが友人らを止められても、聖と同じ理由でこっちに手を貸すわけにはいかないだろう。


 俺を殺そうと一層力をこめる立浪さんを止めるには、……決断するしかないのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る