File12 命の選択

惚れ薬だろそれ

 ダンジョン探索で真祖を倒した、次の日。

 今日は探索はないという連絡が早々に入った。作戦の指揮を執っている人達もかなり消耗しているから、だそうだ。それにまだ動ける真祖が残っているかもしれないという警戒もある。連続で狙われたら深部にもぐってるパーティが今度こそ全滅するかもしれない。


 ということでのんびりと朝食をとることにした。


『章彦くん朝ごはん食べた? まだなら作るけど』


 亜里沙からメッセージが入った。

 なんてありがたい。


 共同キッチンに足取り軽く向かった、が。

 静乃とラファエルもいる。静乃がラファエルに朝食を作ってるみたいだな。


 何気に、怪しいそぶりがないか、ついついチェックしてしまう。


「章彦くんはパン派? ご飯派?」


 亜里沙に話しかけられて監視を中断する。


「どっちでもいいよ。亜里沙が作りやすい方で」

「それじゃトーストとベーコンエッグでいいかな。サラダもつけちゃうよ」

「うん、任せる」


 そんなやりとりをしていたらリンメイがやってきて静乃に話しかけている。


「ラファエルさんの朝食アルね? これを使うといいヨ」

「何ですか?」

「特製スパイスアル! すごく美味しくなるネ」


 静乃以上にあからさまにめっちゃ怪しい!


「ひじりんもくろちゃきの作ってるカ? これ入れるネ」

「入れなーい」


 よかった即きっぱり断ってくれて。


 他の探索チームもやってきて、ラファエルをからかっている。なにせ外からやってきた幼馴染を同じ部屋に寝泊まりさせてるなんて他に例がないもんな。そりゃいくら否定してもカノジョとか婚約者とか言われても全然不思議じゃないだろう。


 ラファエルは赤くなって否定しているけど、静乃は微笑して彼らの様子を見ているだけだ。


「あんだけ騒がれてるのに、否定しないんだな」


 静乃にそっと近寄って、小声で尋ねる。


「何を、ですか?」


 きょとんとしているけど、それさえも作られた動作に見える。


「ラファエルとのことだよ。いいなずけって言われてるだろ?」

「昔からよく言われてますから、もう慣れました」

「ラブラブだから気にしないアルね?」

「さあ、どうでしょう」


 話に乗っかってきたリンメイにも冷静に答えてる。


 こういう性格、なのか? だんだん判らなくなってきた。

 まぁいいや、人の目は十分にある。一旦静乃のことは考えないようにしよう。


 今は亜里沙が用意してくれた朝食を堪能するぞ。




 ご飯を食べ終わって、部屋に戻ろうと歩いてると着信だ。

 ――真琴さんからだ。


「もしもし?」

『あきちゃん、元気にしてる?』

「なんとかね」


 何度か死にかけたけど。


「真琴さんからかけてくるなんて珍しいね。何かあった?」

「まことさん? 女の人?」


 隣の亜里沙がすかさず反応して小声でつぶやいてる。

 浮気とかじゃないからなっ。


『ダンジョン探索が大変そうだって聞いたから心配になって』


 誰に聞いたんだろう。服部師匠? それとも父さん? 旦那さんの勝利かつとしさんのコネかな?


「大変は大変だけど……、何とかするしかない、かな」

『あきちゃんなら大丈夫と思うけど、無理だけはしないでね』

「うん、ありがとう」


 俺の部屋の前まできた。

 来る? とドアを指さして首をかしげて亜里沙に問う。嬉しそうにうなずく亜里沙がかわいい。


 部屋に入って、テーブルにE-フォンを置いた拍子に、ハンズフリーをタップしてしまったみたいだ。

 ちょうどいい。このままにして浮気疑惑を払拭しておこう。


「そうだ、真琴さん覚えてないかな。十年近く前だからアメリカにいた頃なんだけど、真琴さんと一緒の時に話しかけてきた女の子がいた、らしいんだ。ミリーって子なんだけど」


 俺はミリーが話していた、再会の時の様子を伝えた。

 俺がひどいことを言ってたって亜里沙に知られたくないけど、過去の俺がやっちまったことだ。これで嫌われるなら仕方ない。


 真琴さんはすぐに思い当たったみたいで「覚えてるわ」と当時の状況をより詳しく話してくれた。

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