伝えたい気持ち
とりあえずラファエルに忠告もしたし、部屋に戻るか。
……ん? なんか視線を感じる。
見ると、亜里沙が何か言いたげにこっちを見てる。
「どうした?」
「章彦くん、静乃さんが気になるの?」
うーん、あんまり大きな声で怪しいとは言いたくないな。
「ちょっとこっちに」
居住区の、アパートの裏に亜里沙を連れていく。
「気になるってか、怪しいなって思うよ」
「怪しい?」
「あぁ。ラファエルが言ってた話、聞いたか? あいつの行方不明の親父さんが静乃を訪ねてきて、ラファエルは無事だ、ここにいる、って伝えたらしい。自分は忙しいから連絡取れない、って。家に吸血鬼が襲ってきてなんとか生きながらえたなら、まず逃がした息子に連絡取るだろう? 重要な魔導書まで渡してるのに」
「……うん、そうだね」
「それに静乃の態度。不自然に思えるんだよな。これは俺が怪しいって思ってるからかもしれないけど」
亜里沙はその辺りは特に何も感じなかったそうだ。
俺の思い違いか?
「だからラファエルには静乃の動向に気をつけろって言っておいたんだけど、あの腑抜けっぷりじゃ気を付けるとか無理だな」
肩をすくめると亜里沙は笑った。
「そっか、気になるってそっちかぁ。よかった」
「えっ? 何がよかったんだ?」
怪しいのはよくないと思うけど。
問い返したら、亜里沙が口を手で押さえてかぁっと赤くなった。
「な、なんでもない、ごめんっ」
走り去っていく亜里沙の後ろ姿を見て、胸が苦しくなる。
「ちょっと、待って」
追いかけて、手首を掴んで引き留めた。
赤面している亜里沙の顔が、俺の近くにある。
胸が痛いほど、心臓がうるさい。
……今言わないで、いつ言うんだよ。
真祖みたいな強敵がこれからも現れるかもしれないのに、悠長に「ことが片付いてから」でいいのか?
――よくない。
「亜里沙、あのさ……。君に、話しておきたいことがあって」
うっ、いざ告るとなると、なんて言ったらいいのか判らない。準備していたわけじゃないし。
「なぁに?」
少し落ち着いた亜里沙は、何か、期待しているかのように見えるのは、希望的観測ってやつだろうか。
「言いたくて言えなかったことがあるんだ。話してしまって、避けられたり拒絶されるのが怖くて、今の状態のままでもいいと思ってたんだけど、命の危機を何度も迎えて、やっぱり、自分の気持ちに正直になっておくべきだと思ったんだ」
あぁ、前置き長いな俺。
なんて頭の冷静な部分で自分にダメ出ししつつ、正直な気持ちを、ストレートに言葉にした。
「君が好きだ。初めて会った時からずっと。よかったら付き合ってほしい」
「ありがとう。実はね、そういってくれるの、待ってたの」
亜里沙の嬉しそうな顔を見て、あぁ、本当なんだなって思う。
「そうだったのか。ためらう必要なんてなかったんだな。……ありがとう、うれしいよ」
亜里沙の手首をつかんでいた手を放して、改めて、彼女の手を握る。
「俺は人付き合いが苦手だから、君を困らせたりするかもしれない。嫌なこととか、してほしいこととかあったら、教えてほしい」
「うん、そういう時は言うね。――あ、早速ひとつ、いい?」
えっ、まずいことしたかっ?
ドキドキする俺を見て亜里沙が笑って、言う。
「『君』っていうのやめてほしいな。他のみんなには『おまえ』とか親し気に言ってるのに、なんだか距離を置かれているみたい」
あぁ、初対面で名前呼び拒否られたから、呼び方とかで距離取ってたのは確かだ。
「真祖と戦ってる時、おまえ、って言ってくれて、……嬉しかったんだよ」
そうだっけ? 半分意識ないから覚えてないけど。
「判った。おまえがそう望むなら」
「わたしも、章彦くん、よりもっと親しい呼び方したいなぁ。考えておこうっと」
そういうのこだわるの女の子独特だよな。いや、亜里沙だからか?
どっちにしても楽し気にあれこれ考えてくれるのは、嬉しい。
正直、世界を救う、なんて考えると荷が重いんだけど、亜里沙を守ると思うと、やらなきゃってなる。
世界から見たら小さいことだけど、俺にとっては大切なことだ。
亜里沙、おまえは、俺が守る。
(File11 真祖襲来 了)
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