怪しさの正体が判らない

 夜まで俺らもゆっくり休んで、改めて月宮のところにパーティで集まった。

 早速真祖についての話を聞く。


 真祖とは、とあるものから生み出された存在で強大な力を持っている。それゆえに力を行使しすぎると、制御しきれなくなり自らを滅ぼしてしまうという弊害もあるそうだ。


 俺らが戦ったのは、手の動き一つで空間を捻じ曲げ圧縮して対象を死に至らしめる――俺はギリギリ生き残ったけれど――ほどの力だ。なるほどすごい力だよな。あれを使いすぎると自分も無事じゃいられない、ってことか。


 今になって思えば、もっとバンバン攻撃して来たら俺らはあっという間に全員倒れていただろう。

 力をセーブしていたということか?

 あとは、美坂さんに結界を消されたのが痛かったんだろうな。


 で、そんな弊害があるから真祖自身が動くことはめったになくて、自分の手足となって働く存在として、吸血鬼を作り上げた。

 が、長い年月の間に吸血鬼達は使われるだけの存在ではなく、真祖の下を離れて独立していった。それが今の吸血鬼社会となっている。

 そこに属するものは人間に対して中立から親しい感じで関わっている。エンハウンスみたいに人間に敵対する者もいるらしいが、そういう連中はたいていコミュニティに属していない「はぐれ」だ。


 真祖は普段は眠りについている。彼らにとっての「有事」、つまり、真祖を作った者が必要とした場合に目覚め、創造主の目的のため動くということだ。

 その際は上位者として吸血鬼に自分の思うように動くことを強要することができる。普段は真祖の影響を逃れている吸血鬼だけれど、強く命じられると逆らうことができない、できたとしてもかなり難しいそうだ。

 だから今回の作戦には吸血鬼達には距離を置いてもらっているらしい。


「まさか、こんなに真祖が残っているとは思わなかったわ。あんた達が戦ったのはどんなヤツ?」


 俺らは真祖の身体的特徴と戦闘能力、ヤツが言っていたことも月宮に説明した。


「そう。きっとそいつは今回の邪神復活に大きく関わっていたヤツね。エンハウンスを直接使役していたと思われるわ。けれど、まだ他にもいるわね、きっと」


 他にも邪神を復活させようとしている真祖がまだ残っているということか。


「あと、……ミリーは何か動いているんですか?」

「諜報員達に探らせているけれど、彼女達は活動拠点を転々と変えているわね。今のところ大きな動きはないけれど、逆に不気味ではあるわ」


 今後、何か大きく動きがあるかもしれないから注意するように、と月宮が締めくくって解散となった。


 月宮の部屋を出ると、ラファエルのカノジョの静乃しずのが来ていた。


「お話は終わった?」

「あ、うん」

「ご飯できたから、お部屋で一緒に食べましょう」


 なんだよそのラブラブっぷりは。

 って、ちょっと待て。


「おまえ、カノジョを自分の部屋に泊まらせるのか?」

「静乃はカノジョじゃなくて幼馴染だよ」

「ただの幼馴染を同じ部屋に寝泊りさせるのか? カノジョっていうよりもう婚約者だな」


 冷やかして、様子を見る。

 ……なんか、違和感あるな、この女。


 恥じらう様子もないし惚気もしない。淡々と俺の言葉を受け止めて、いや、受け流してるって感じだ。そういう性格といえばそれまでだが、なんていうか、……やっぱり、違和感があるというのが一番しっくりくる。


「おいちょっと来い」


 ラファエルを引っ張ってく。


「気をつけろよ。現れ方も不自然だし、親父さんの話もちょっと怪しい。なんか裏があってもおかしくない」

「えっ、そんな、静乃はそんな――」

「何の話ですか?」


 ちっ、ついてきやがった。


「告白の言葉を聞こうとしてたところ」

「だから、彼女は幼馴染で――」

「静乃さん、心配で様子を見に来たって? 判るよ。なにせこいつってば吸血鬼に追いかけられてた時、俺が助けなきゃ満足に抵抗もできずに殺されてたに違いないもんな?」

「えっ? 本当ですか?」


 静乃は驚いたような顔でラファエルを見ている。


「余計な事を言うなぁ!」


 ラファエルは赤面して俺に殴りかかってくるけど、そんなへろへろパンチが回避タイプの俺に当たるかっての。


 静乃の様子をもう一度見る。

 口に手を当ててラファエルを案じているように見えるが、……目に感情がないように思える。


 怪しいと思ってるから俺が色眼鏡で彼女を見ているだけなのかもしれないが。


 とにかく静乃の行動には注意しておいた方がいいってことだな。ラファエルはあんな感じで全然警戒していないし。

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