真祖襲来は複数だった
遠い意識の中で、亜里沙の声がする。
ひどく取り乱してるな……。
大丈夫だ、リンメイが回復魔法かけてくれてるだろ?
「HP全快なのに目を覚まさないじゃないっ」
「ひじりん落ち着くアル」
俺は死なないから、そんな慌てんなよ。
……けど、そんなに心配してくれるんだ、俺の事。
ちょっと、いや、結構嬉しいけど、亜里沙を悲しませたくないから早く起きないと。
いったん体から力を抜いて、リラックスしてから、目を開ける。
「あ……、章彦くんっ」
涙目の亜里沙の顔が近い。
「やぁ亜里沙。おはよう」
冗談っぽく言ってみる。
「おはようじゃないよぉ、目がさめなくて、心配したんだから……」
あ、茶化したのは逆効果だったか。
「えぇと、ごめん。もう大丈夫だから」
体を起こして、謝る。
「二人の世界アル、ムカつくネ」
リンメイがふてくされてる。
「戻りましょう」
ヘンリーが肩をすくめて、帰りのゲートを指した。
そうだな、長居は無用だ。
本部に戻ると、……なんか慌ただしい。
「何かあったんですか?」
近くの人に聞いてみたら、高レベルの異能者達がこぞって出払っているらしい。なんでも緊急事態とか。
しばらく待ってると、ぽつぽつと戻ってきてるみたいだ。
――あ、レッシュとリカルドさんだ。
「レッシュ、緊急事態って?」
「よぉ章彦。おまえらももぐってたんだろう? 大丈夫だったか?」
「うん、ちょっと死にかけたけど大丈夫」
「それって大丈夫じゃねぇよ」
つっこまれた。
「真祖が現れたのです」
真祖?
「まだ説明は受けていないのですね」
リカルドさんが説明してくれる。
月宮が水晶でダンジョンの様子を見ていたら真祖、吸血鬼の強いヤツが現れた、っていうんで高レベルのイクスペラー達が対応に出たらしい。
ダンジョンの先の方に進んでたパーティが襲撃を受けたそうだが……。
じゃあ、俺らのところに来たのも、その真祖ってヤツなのか。確かに、吸血鬼の強いヤツだったな。
「よく無事だったなぁ」
「美坂さんがいたからでしょう」
リカルドさんの言葉にレッシュは納得したみたいだ。美坂さんってやっぱり強いんだな。何せ結界とか切っちゃうぐらいだから。
「美坂さんは、無事ですか?」
「かなり消耗してたけれど、大丈夫らしいです」
「なら、よかった」
リカルドさん達はほっと息をついた。
「それで、襲われたパーティはどうなったんですか?」
「真祖はおまえらのところ以外に、六つのパーティを襲ったみたいだ」
高レベルイクスペラーが救援に行くまでに、二つは全滅、二つは生存者が数名いるという壊滅状態。あとの二つは何とか間に合った、ってところだそうだ。
ひどいな。
こっちの攻撃が結界みたいな輪に阻害されてたから無理もないだろうけど。
高レベルになったらあれももろともせずに攻撃を通せるんだな。
「で、その真祖ってのは一体何なんですか? ヤツの言葉からして、エンハウンスの上司っぽかったけど……。そんなのが何人もいるんですか?」
俺の質問にレッシュは頭を掻いた。
「詳しいことはおれも知らない。月宮か亮に聞いてくれ」
亮、って富川さんか。レッシュは富川さんと親しいんだっけ。
そんなふうに話していたらちょうど二人も戻ってきたみたいだ。けど、すごく疲れてるな。
「話、……聞けそうな雰囲気じゃないよね」
「後にするか」
パーティでうなずき合って、少し時間を空けてから月宮のところに行くことにした。
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