これ以上の被害は出させない

 亜里沙の家の近くまで来た。

 すぐに異変に気付く。

 彼女の家と思しき家屋の周りに規制線が張られてある。あの警察の黄色と黒の「立ち入り禁止」のテープだ。


 少し離れたところにバイクを停めると、亜里沙が走って行く。

 やっぱりあの家か。


「現場検証中なので立ち入り禁止ですよ」

「お父さんとお母さんはっ?」


 警官と亜里沙のやり取りが食い違っていて胸が痛い。


「あなたはこの家の娘さん?」

「そうです。……父と母は無事なんですか?」


 その辺りで俺も亜里沙の後ろに追いついた。

 近所の家からおばちゃんらが出てきて亜里沙に声をかける。


「亜里沙ちゃん! どこに行ってたの!? 大変だったんだから!」

「えぇっと、お友達の家に泊まりに……」


 おばちゃんの勢いには亜里沙もまだかなわないみたいだ。対等になるにはあとニ、三十年はかかるか?

 しかしそのいいわけはまずいんでは? どう見ても俺のところに泊まりに来て送ってもらった図だよな。俺はいいけど亜里沙に変なウワサが立つのは気の毒だ。

 ほら、おばちゃんが俺の顔をまじまじと見てるぞ。


「あ、この人はお友達のお兄さんで、送ってもらったんです。朝、着信に気づいて急いで戻らないとっていうことで」


 まぁ全くの嘘じゃないな。しかし「お友達」は誰を想定してるんだ? 江崎さん辺りならいいけどリンメイはイヤだとかちょっと思ってしまった。


「で、何があったんですか?」

「強盗よ。ご両親は病院に運ばれて行ったわ」


 おばちゃんが言うには、夜中に強盗が押し入り、両親に怪我を負わせたそうだ。おばちゃんが物音に気づいて警察に通報したのだとドヤ顔で言う。だから強盗は物を取る間もなく逃げて行ったのだ、と。


「それで、父と母の容体は」

「ひどく切られちゃっててね、救急車で運ばれていくのをわたしが見た時には意識がなさそうな感じだったわ」


 おばちゃん、途端にドヤ顔から自分が被害者なのかというくらい悲しそうな顔になった。


 亜里沙の血の気が引いていく。

 これは、やられたか。


「亜里沙ちゃん、病院に行った方がいいんじゃないかな」


 ここで呼び捨てにすると友人の兄という立場を怪しまれてしまうかもだから、慣れない「ちゃん」付けで呼んだけど、かえって不自然だったかな……?


「ひゃっ? あ、うん、そうだね……」


 亜里沙が真っ赤になってうなずいた。なんか彼女のツボみたいなのにハマったか? いちいち反応が可愛い。


 とにかく病院に行くことにした。救急搬送されそうな病院に問い合わせて、亜里沙の両親が運ばれたところを探し出して向かう。


 亜里沙は家族ということで面会を許可された。俺は待合室で待つことにする。


 しばらくして戻ってきた。


 ご両親はわりとひどい状況らしい。全身に切り傷があるとか。出血もたくさんで、意識を失っているらしい。


「やっぱりあきちゃんの家政婦さん達を襲った犯人と同じ、なんだろうね」


 うなずいて、ふと思い当たる。


「亜里沙、江崎さんに連絡取れないか?」

「そうか、みほちゃんが絡んでる可能性もあるんだね」


 病院を出て、亜里沙がE-フォンで江崎に電話をかけている。

 呼び出し音は鳴ってるけれど、相手が取らない、という状況らしい。


「出る気なし、か」

「うん。また時々かけてみるよ」


 そうだな。呼び出し音が鳴るということは着信拒否をされているわけでもないし、電源を切られてもいないなら、もしかすると脈ありかもしれないし。


 しかし、ミリー達の仕業かどうかはともかく、犯人ががっつりと俺らの周りをターゲットにして生きているのは確かだな。

 これは、ヘンリーとリンメイの身内を保護した方がいいな。


 急いで本部に戻って、月宮に話をする。

 意外にも受け入れられた。そんな必要なんかないわよと一蹴されたらどう説得しようかと考えてたから拍子抜けだけど、よかった。


 すぐに行動に移すことに。


「ヘンリーは教会のシスター達をこっちに連れてくる手配を。大きな車がいるな。あと、念のため亜里沙にもついて行ってもらおう」

「リンメイの方はどうするネ?」

「おまえはおれのバイクの後ろに乗ってけ。本部から一台車を出してもらうから家族はそっちに乗ってもらおう」

「判ったヨ。ありがとうくろちゃき」

「あの、僕は……」


 ラファエルがおずおずと尋ねてくる。


「ついてきたいなら、どっちかに同行すればいいよ」


 正直、どっちでもいい。悪いがおまえに対する心象はよほどの汚名返上がない限り浮上しない。一応パーティメンバーのままだからダンジョンにもぐる時は今まで通り戦力はあてにするけど。


 ラファエルは逡巡したのち、こっちについてくると言った。

 意外だな。俺とは同行したくないと思ってた。


 念のため、E-フォンのグループ通話を繋ぎっぱなしにして、それぞれが行動に移った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る