自分の無力さを痛感する

 富川さんの話は、本部に開いたゲートがどこから発せられたのかが突き止められたということだった。ただ、行ってももう実行犯はとっくに撤収しているだろう、との予測だ。行っても無駄だろうと思いつつ、何か手がかりが見つけられれば、といったところだそうだ。


 何も動かないよりはいいか、って感じだな。


「君達も同行するなら行っていいよ」

「じっとしていても仕方ないし、行ってみようよ」


 亜里沙の呼びかけに俺らは皆、うなずいた。


 現地に向かうのは研究班のリーダー、リカルドさんと彼の管轄するパーティ、あとは、野外の捜索に長けた人達が一パーティだ。そこに俺らが合流する。


 車で四時間ほど走った山奥に到着した。

 廃屋がある。


「このあたりの地脈が、ゲートを開く儀式にちょうどよかったのでここを利用したのでしょう」


 辺りを一通り調べてきたリカルドさんが言う。

 この人、化学方面に長けているからそっちに注目するけど、魔術方面の知識もすごいらしい。


 そういえば最初にエンハウンスにボコボコにされた時にレッシュと一緒に助けに来てくれたよな。風魔法攻撃がエンハウンスを怯ませ、よろめかせてた。かすっただけであれだ。直撃してたらもしかしたらエンハウンスもかなりヤバかったんじゃないかな。


 廃屋の中も捜索する。こちらは野外班が活躍した。

 ここで活動していた人数や期間の予測が出され、静乃の足跡と、作戦本部の土もあると解析された。

 俺らはほぼ、黙って見ているしかできなかった。


「活動していたのは十名ほど、期間は一週間といったところでしょうか」

「時間をかけて儀式を行い、転移ゲートを開いて水瀬静乃を迎え入れた、と見ていいでしょう」


 そしてさっさと撤収した、と。

 そんなに念入りに準備していたのか。


 転移ゲートって、月宮や富川さんがわりとあっさり開いたりしているから、方法さえ知っていればもっと簡単に開けるもんだと誤解してたけど本来はすごい難解な技らしいな。

 それだけあの二人がすごいということなんだろう。


「ここからはトラックか何か大型の車で移動したようですが、タイヤ痕が町の方に行っているのでその先は追跡できそうにないですね」


 そうだろうなぁ。


「……これ以上の手がかりはなさそうですね。陽も落ちてきましたし、撤収しましょうか」


 リカルドさんの決断に皆がうなずいて、俺らは作戦本部に戻った。

 すっかり夜になってしまっている。

 今のところ、新たに襲撃を受けたという話はなさそうだ。よかった。


 真琴さん達が入院している病院から、彼女らの血液検査の結果が届いていた。

 全員の血液から、特定の物質が検出されたが、それが何なのかはまだ判っていない。おそらく意識不明のままであることに関係していると思われるので解析中、だそうだ。


 医療機関で調べても判らない物質、か。

 なんか、嫌な感じだな。

 今はとにかく早く原因であろう物質が何なのか解明されて、対策が取られるのを祈りながら待つしかできない。


 くそっ、もどかしいな。

 俺にもっと知識と力があれば。

 ……嘆いても、どうにもならないって判ってるけど。




 次の日の朝早く、亜里沙が俺の部屋のドアを叩く音で目が覚めた。


「あきちゃん、起きてる?」

「どうした?」


 ドアを開けると、焦り顔の亜里沙が「家の様子を見に行きたい」という。


 彼女のE-フォンに夜中に母親から着信があったそうだ。が、亜里沙は気づかずに眠っていた。で、さっき起きて折り返し電話をかけたが母親は電話に出ない、と。


「それは、まずいな。ちょっと待ってて。支度する」


 急いで着替えて、亜里沙を後ろに乗せて彼女に家に向かった。

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