あの時確認しておけば

 目を覚ましたラファエルは、自分の状況や静乃の事を告げられても信じられないといった様子だ。


「嘘だ、静乃がそんな……」


 こいつ、まだそんな呆けたことを言ってやがるのか。


「おまえな。俺は二度も気を張っとけって忠告したよなっ?」


 思わず胸倉掴みそうになるけどそこは堪えた。


 そうだけど、と弱々しく言うラファエルは、反省の様子が全然見えないどころか、消沈してるというのがぴったりだ。


 ……それだけこいつにとって静乃って信頼できる相手だったのか、と思うと、冷静に判断できる俺らがもっとしっかり監視するべきだったのかもしれないとも思う。ラファエル達が夕食摂ったのが俺らが病院に行ってた時間だって証言があったから、俺の連絡が未読と判った時点でラファエルの様子を身に行ってたら異変に気づいただろう。


 ラファエルへの憤りは静乃や彼女を操っている連中に向かう。ラファエルの親父が絡んでいるのは間違いない。その親父を操ってんのは、やっぱミリーだろうな。


 こんなことはやめさせないと。


 富川さんが様子を見に来た。今まで見たことないくらい険しい顔だ。

 ラファエルにどういう状況だったのか、って尋ねてるけど。


「状況、といわれても、夕食を食べたら急に眠くなって……」


 ラファエルのぼんやりとした答えに富川さんも苦笑している。


「ま、外傷もないし、もう部屋に戻っていいよ」


 こりゃ呆れられて諦められたな。


「だから警戒しろって言っておいたのに。それにしてもよく殺されなかったよな。俺が静乃の立場なら間違いなく止めを刺すぞ。どうせ魔導書持っていったら自分が怪しまれるんだから。よかったなぁ、犯人が俺じゃなくて」


 せめてこれくらいのイヤミは言わせてくれ。


「あのまま処置しないままだったら三日間は眠ってるぐらい強力な睡眠薬だったみたいだからね。黒崎君達にお礼言っとくんだよ」


 いや、別に礼なんていい。これから気をつけてくれれば。


 ……ふと、「眠ったまま」で真琴さん達のことを思い出した。


「富川さん、俺の知り合いが襲撃を受けて眠りっぱなしなんですけど」

「うん、聞いてるよ。心配だね」

「まこ、いや、結城さん達の血液検査もした方がいいかもしれません」

「あぁ、それはもうお願いしているよ」


 そうなのか。さすが富川さんだ。


「何か判ったらこちらに連絡が入るようになっているから、その時は黒崎君にも伝えるよ」

「ありがとうございます」


 医務室から出ると亜里沙達が来た。

 彼女らは本部内に静乃がいないか探してくれていたみたいだけど、見つけられなかったそうだ。


「つまり、本部内に開いたゲートって、『お迎えゲート』ってこと?」

「魔導書盗った静乃さんがそれで逃げたってことアルね? でもそんなに簡単にゲートって開けるカ?」

「時間をかけて儀式でもして、準備していたのでしょう」


 亜里沙達の話に、そうだな、と相槌をうつ。


 最後にミリーと敵対してから静かだったが、あれこれ裏で動いてたんだな。この騒動もその一つなんだろう。


 改めて、俺の知り合いが襲撃を受けて意識不明だということを伝えて、みんなの周りにも何かあるかもしれないから注意するように言う。俺やラファエルの周辺だけで済むとは思えなくなってきたからな。


 亜里沙とリンメイが家族に、ヘンリーがシスターに警戒するようにと電話している。


「ママー、くろちゃきの知り合いが襲撃されたアル。……違うネ、くろちゃきパパじゃないアル」


 あの人が襲撃受けて負ける相手が敵だったら俺は逃げさせてもらいたい。


「パパとママなら大丈夫だろうけど、じいちゃんのこと、よろしくアル」


 じいちゃん思いなんだな。ちょっと感心した。


 亜里沙も母親と似たような会話をかわしていた。そういえば母親は内閣調査室に勤めてるんだったな。父親は一般企業に勤めてるのかな。


 今日あたり、ダンジョン探索に行くものだと思ってたけれど、ゲート騒動を解決する方が先だということで今日も待機になった。


 それぞれ、すぐに動けるように心構えしつつ、なんとなく落ち着かない時間を過ごしていたが、昼過ぎに富川さんに呼び出された。

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