夜明けのサイレン
まどろみの中で甲高い音が響いている。
……これは、サイレン?
ぱちっと目を開ける。
今まで聞いたことないようなけたたましい音が本部内に鳴り響いている。
『本部内に正体不明のゲート反応。注意!』
切羽詰まった男の声がサイレンとサイレンの間に響いた。
ゲート?
咄嗟に自分の部屋の中を見回す。
何もない。
部屋を出てパーティメンバーの部屋のドアを叩いて回る。
亜里沙、リンメイ、ヘンリーはすぐに出てきた。
だがラファエルの部屋からは何の反応もない。
まさか?
ドンドンと思い切り叩くがやっぱり反応がない。
ドアに耳をあてる。しんと静まり返っている。ノブをまわすが鍵がかかっている。
「まさか、ゲートが開いて連れ去られた?」
「大変よっ。ドアを破壊してでも助けないと」
ヘンリーがつぶやいたのに亜里沙が反応した。いや、連れ去られたならもう手遅れ……。
とか言いながら思わず『崩壊の赤眼』を発動してしまったのは内緒だ。
深呼吸して、開錠を試みる。そう難しい仕組みの鍵じゃないから、あっさりと開いた。
ラファエルは机に突っ伏して寝ている。静乃はいない。
「あ、な、た。起きてアル」
リンメイがしなを作ってラファエルをゆする。
まったく起きる気配がない。
俺も近寄って様子を見るが、深く眠っているようだ。
だがいくら熟睡してるとはいえ、これだけ騒がれて体までゆすられて、まったく反応がないというのは異常だ。
「もうすでに神の御許に参られましたか?」
ヘンリーが胸の前で手を組み合わせ祈りをささげようとしている。
「生きてる生きてる」
思わず苦笑いが漏れた。
『ゲートは閉じたようです。しかし、侵入者が紛れ込んでいる可能性も考えられるので、引き続き警戒してください。また、何か異変に気づいた場合は、即座に司令部に連絡を入れてください』
サイレンがやみ、男の声が外のスピーカーから聞こえてきた。
「ゲート閉じてよかったね」
「けど、まだ何が起こるか判らないな」
「そういえば静乃さんがいないアル。逃げたカ?」
逃げたという言い方が、どちらかというと悪印象な感じだ。
「リンメイも静乃が怪しいと思っていたのか?」
「なんだか感情を無理に押し込めているみたいだったアルよ。冷静なのを装っているみたいな感じネ」
やっぱりか。
ってことは。
「ラファエルの魔導書はあるか?」
机の上を見るがない。みんなで手分けして探すがない。ラファエルが自分の異次元収納ボックスに入れている可能性もわずかにあるが、今机に突っ伏しているということは、おそらく魔導書の解析をしていたんだろう。
「急いで司令部に連絡だ。多分魔導書を静乃に持って行かれた」
それからは慌ただしくなった。
ラファエルは医務室に連れていかれて簡単に検査を受けたが、何らかの薬を投与されて深く眠っている、となったので彼の血液を抜いて詳しく検査することになった。
俺は研究者のリーダーであるリカルドさんに手伝いを申し出て、ラファエルの血液や、彼が食べていた夕食、台所にあった調味料に薬物――毒物かもしれないが――が混入していないかを調べることになった。
しばらくして「なんだこれは? 成分がわからないぞ。これがアヤシイ」と研究員が話している声を耳にした。
中国の漢方系で、精神に何らかの影響をきたす薬、らしい。
リンメイの惚れ薬か。
「ああ、それの出所は判ります。ある意味危険ですが今回のラファエルのこととは無関係だと思います。もっとも、それと別の薬が混ざり合って特殊な効果が出た、とかなら話は違ってきますが」
「何なのだ? これは」
「惚れ薬です」
「どうしてそんなものが共同キッチンに?」
「恥ずかしながら俺のパーティメンバーの悪ふざけです」
「……あぁ……」
なんか納得されたようなため息をつかれた。リンメイ、おまえの普段の言動は、おまえが思っているより周りに怪しまれているぞ。
結局、ラファエルの血液と食事の残りから強力な睡眠薬が検出された。
「このままでは三日間は眠り続けるな」
「危険ですね。起こさないと」
しかし睡眠薬を中和するって、覚醒を促す薬品ってことになるな。量に気を付けないとな。
……いっそたくさん盛ってパーティメンバー交代してもらった方がいいんじゃね? と思うが、人としてやっちゃいけないだろうから黒い考えは腹の中だけに納めとく。
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