凶事のはじまり
その日は何事もなく過ぎて……、と思ってた。
午後七時頃、亜里沙と晩御飯どうしようかなんて話をしていると、父さんから電話がかかってきた。
「父さん? 珍しいね電話で連絡なんて」
『緊急の要件だ』
父さんの緊張した声にただ事じゃないと察する。
「何?」
『真琴さんが襲撃された。光さんもだ。二人とも意識不明だ』
――え?
真琴さん、今日、朝、話したばかりじゃないか。
頭から、さぁっと血の気が引くのが判る。
『時間があるなら見舞いに行ってきなさい』
「判った。すぐに行く」
病院の名前と位置を聞いて電話を切って、立ち上がる。
「あきちゃん? どうしたの? 顔真っ青」
「病院、行ってくる」
「何かあったの?」
知り合いが襲撃を受けて、と軽く説明して出ようかと思ったが、ふと、今朝ラファエルに怒鳴ったことを思い出す。
「おまえもついてきてくれないか。さすがに一人で外に出るのは危険だ」
共同キッチンから外に出ると、ラファエルと静乃に出くわした。
「どこかに行くのか?」
「あぁ。知り合いが襲撃を受けたから様子を見てくる」
「聖さんと?」
「あぁ」
「二人で出かけて大丈夫なのか?」
……おいおい、そのちょっとイヤミな口調、静乃と出かけるのを止められた意趣返しのつもりか?
「おまえを乗っけてくよりは十分大丈夫だと思ってるよ」
「うわ、きっつー」
実際、誰か一人連れていける状況なら能力的に亜里沙かリンメイだ。何かあった時、亜里沙は素早さで、リンメイは魔法で逃げられる。俺はスキルで姿を消せるし。
時間が惜しい。結界の門番に事情を説明したら通してくれたからラファエルは放っておいて亜里沙を連れて外に出る。バイクで病院へと向かった。
真琴さんと光、他にも光と同じ制服を着た女の子が三人、集中治療室に横たわっている。
「結城さんの関係者の方ですか」
主治医が話しかけてきた。
この病院はイクスペラーも受け入れるようなところで、ダンジョンや魔物に関することを話しても通じるっぽい。真琴さん達はイクスペラーじゃないけれど、どうも様子が尋常ではないということでここに運ばれたみたいだな。
傷の具合とか、どんな様子なのかを尋ねる。
「怪我は切り傷や銃創、魔法攻撃と思われる裂傷もあります。結城さんが一番重傷で意識不明となるのはうなずけるのですが、子供達はそれほどのものとは思えません。なぜ目を覚まさないのかは判らず、原因を調査中です」
魔法の痕跡ということでイクスペラーが絡んでるのは間違いない。襲撃者はやっぱりミリーなのか。
それにしても銃創って? 銃使うヤツがミリーの側にいたっけ? 新たに仲間にした?
「犯人については?」
「目撃証言をちらりと聞いた限りでは……」
二十歳ほどの女一人と、男が二人、五十代ぐらいの男が一人、だそうだ。二十代の男一人以外は、外国人だと思われる、ということだ。ワゴン車でやってきて、有無を言わさず襲撃したのだとか。
二十代の女がミリーだろうか。
「あと、傷のつき方から想像できることは、結城さんは無抵抗だったのではないかということです。動きながら受けた傷ではなさそうです」
「光や友人がいたからか。……あるいは、襲ってきたのが誰なのか、気づいたからか」
「襲撃してきたのがあきちゃんの昔のお友達だって気づいたからってこと?」
うなずく。
「俺があんなこと言ったから、相手が誰だか判って抵抗しなかったのかもしれない。……俺の、せいなのか……」
「そんなことないと思うよ。そんなふうに自分を責めないで」
根拠のない慰めだと判っていても、亜里沙の言葉は温かかった。
「ん。ありがとう」
何か動きがあったら俺にも知らせてもらうように主治医にお願いして、病院を後にした。
作戦本部に戻ったのは、夜の十一時を越えた頃だった。
亜里沙に同行のお礼を伝えて、部屋に戻る。
ちょっと遅い時間になってしまったけれど皆には状況を説明しておいた方がいいな。
でも寝てる人もいるかも、だから、E-フォンのグループメッセージに送っておく。
すぐに既読が三、ついた。
『大変だね』
『あんまり気に病まないで』
リンメイと亜里沙の返事にお礼のスタンプを返す。
『そういえば兄貴が変な動きをしているのですが関係あるかもしれません』
ヘンリーが、どきっとするレスを返してきた。何があった?
『見合いの写真を見たかと催促の電話が教会にあったそうです。これは私を皆と引き離す作戦なのでしょう』
……違うと思う。
俺が返すまでもなくリンメイがつっこんでくれたのでそのままにしておく。
ラファエルからは何のレスポンスもない。未読ということは、もう寝てるのかもしれないな。
俺も、疲れた。
さっさと着替えて寝てしまおう。
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