居丈高な兄貴と、懺悔の女

 俺のツッコミを最後に一瞬しんと静まり返った。


“ハロルド、こちらのお嬢さんはどちらの家の方だ?”

“彼女は今請け負っている仕事の仲間というですので”


 おっ? 兄貴が気に入ればリンメイの嫁ぎ先決定?

 ヘンリーは何とか回避しようとしているけど。


“リンメイの家は神社よ。由緒正しい陰陽師の家系ね”


 翻訳アプリを使ったリンメイのアピール!

 また、沈黙。


“こちらのお嬢さんはどうだね? 彼女なら年齢も釣り合うし――”


 兄貴、別の女性ひとを紹介し始めたな。

 スルーされたリンメイは不満を口にしながら離れてったっぽい。


 聞いてると、兄貴はウィンスロー家にふさわしい家柄だとか、そんなところばかりアピールしている。多分それが彼の望みなんだろう。


 家柄、か。


 ヘンリーの意向はまるっきり無視な兄貴の言い分を聞いてると、他人事ながらイラっとするな。確かにこれはウザい。


“せっかくのお話ですが、私は今、大切な任務中ですし、還俗してまで急いで結婚しなければならないわけではないので、遠慮させていただきます”

“何を言っているのだ。ウィンスロー家の次男が三十にもなって独身とはどういうことだ”


 兄貴が語気を荒らげた。

 ヘンリーのため息らしき音がした。

 そこへ。


“お話し中失礼いたします。懺悔をしたいとおっしゃる方がみえておられます”


 シスターがやってきたみたいだ。ヘンリーにすれば大きな助け舟だな。


“仕事ですので、失礼いたします”

“おい、ハロルド。待ちたまえ”


 兄貴が止めるのも聞かずにヘンリーはその場を立ち去ったみたいだな。


 懺悔か。これ、聞いてていいのかな。一端通話切った方がいいか?

 いや、その判断はヘンリーがするだろう。


 俺は引き続き教会の裏手を見張ることにする。


 やがて、懺悔をしている女性の声が聞こえてきた。


「神父様。わたしは生きるためとはいえ、罪深いことをしてまいりました。人のものを盗んだり、盗むために人を傷つけたりしてきました。そしてまた、これからも罪を犯さなければ生きてゆけません。わたしは、どうすればよろしいのでしょうか?」


 少したどたどしい日本語だ。外国人か?


 ヘンリーは神父らしく、神に罪の許しを祈るよう促し、懺悔は滞りなく終わろうとしていた。


 ふぅん。普段飄々としてるように見えてもしっかり神父だよな。

 と感心した、その時。


「もう一つ、大きな告白があります。わたしはこれから、神父様を殺さなければならないのです」


 ――なっ?


 呪文を詠唱する声が聞こえてきた。


 ヘンリーが慌てて離れる物音がして、すぐに、爆発音がEーフォンと背後から聞こえてきた。


 それを合図のように、俺の前の林からモンスターが押し寄せてくる。

 ガイコツや、ゾンビだ。飛行型のガーゴイルみたいなのもいる。

 そして奴らの後ろから、男が一人、悠々と歩いてくる。


「こっちにも見張りがいたか」


 金の短髪の、十代後半ぐらいの男だ。目つきが鋭い。とてつもない殺気を放ってる。


「章彦くん!」


 亜里沙が、その後ろからリンメイが走ってきた。


「ラファエルは?」

「ヘンリーさんの方よ」


 ラファエル一人じゃ心もとないか? でも外の方が敵が多いだろうし、仕方ない。


 スケルトンやゾンビが近づいてくる。

 こいつらに近づかれたらやっかいだ。

 今こそ服部はっとり師匠直伝の奥義を放つ時だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る