これが人狼ってやつか
右腕を前に掲げ、集中する。
炎が、右手に現れ、大きくなっていく。
十分に力がみなぎったところで、ゾンビ達が突っ込んできた。
「くらえ、奥義『炎竜波』!」
腕を軽く振るうと、解き放たれた炎が敵へと走る。狙い通りゾンビどもは炎の竜に巻き付かれて燃え上がる。
最後尾の男はかわしたか。まぁ仕方ない。ヤツの前の敵は一掃できたからよしとしよう。
「すごい、章彦くん!」
亜里沙がめちゃ喜んでくれた。それだけで習得した甲斐があるってもんだ。
「あとはあいつだけアル。楽勝アルよ」
リンメイはそう言うが……。
こいつは、強そうだぞ。
警戒する俺を睨みつけたまま、男はにやりと口角をあげる。
ヤツの体が、変わり始める。
筋肉が服を裂きながら盛り上がり、皮膚を硬そうな毛が覆う。
顔も獣のそれになる。……狼、か?
エンハウンスに捕まったヘンリーのシスターが、ちょっと人間と離れた容姿になったのとは、全然違う。こいつはもっと「獣憑き」が進んだ状態ってやつか。
人狼。そう呼ぶにふさわしい姿になった。
いつもどおりリンメイに補助魔法をもらってから――。
人狼が突っ込んできた。速いっ。
咄嗟に短剣で爪を受け止めるがすごい衝撃だ。
続けざまに爪を振るわれて、あっという間に腕を裂かれる。
亜里沙が人狼に攻撃するが、全然かすりもしない。
「すべてを壊す、『崩壊の赤眼』」
スキルを発動すると、さらにMPを消費して人狼の急所に攻撃を誘導させる。
人狼は少し狼狽したような雰囲気だったが、俺の腕を掴んで反対の手で腹を突いてきた。
その攻撃を俺も受け止めて、掴みあう形になる。
「亜里沙、今だ」
リンメイの攻撃アップの魔法をもらった亜里沙が突っ込んでくる。
さすがに食らっちゃまずいと思ったんだろう、人狼が俺から手を放して距離を取ろうとする。
チャンス!
「落ちて砕けろ。『流星落とし』」
人狼を持ち上げて空中へ。半回転してヤツの頭から落下。
地面に叩きつけられてくぐもったうめき声を漏らした人狼に、亜里沙の追撃が決まった。
これで行動不能だろう、と思ったけど。
人狼はすぐに立ち上がって、俺の横をすり抜けてリンメイにつかみかかる。
ダメージ食らってその動き、やっぱこいつ強いな。三対一でも後れを取ってないし。
と、感心している場合じゃないな。
「いや~。来ないでアル!」
逃げるリンメイを追いかける人狼を追いかける俺と亜里沙。
はたからみたらすごい絵面だな。
人狼の爪がリンメイの背中をひっかく。断末魔みたいに聞こえるリンメイの悲鳴が響いた。
その隙に短剣でヤツの背中にある致命の点を突き刺す。
亜里沙はちょっとためらったみたいだが、人狼の脚を切った。
今度こそ行動不能だろう。
って、すごいスピードで回復していってる。それチートじゃね? ってぐらいに。
あぁ、でもきっと、MPとか闘気を使ってるんだろう。だったら手数で押せばそのうち回復もできなくなるはず。バイタルメーターを装着してたら相手の底が見えるんだけど今は手ごたえと相手の様子で判断するしかない。
リンメイを後ろにかばって人狼の前に立つ。回復、補助担当を落とされたら一気に不利になるからな。
劣勢なはずの人狼がニヤリと笑う。
ヤツの後ろからまたスケルトンやガーゴイルが現れた。
「ふん、有象無象が増えたところでなんともないな」
本当は『炎竜波』でMPを使い果たしてるから回復しないと、なんだけど。
はったりをかましながらMPポーションを取り出して、体にかけた。さすが魔術込みのリカルドさんのポーションだ。よく効く。
亜里沙が再び攻撃を仕掛ける間に、手に炎を集めていく。
「……ちっ」
判りやすく舌打ちをして、人狼が跳び退った。
逃げる気だな。その前に奥義を食らわせて――。
グループ通話をつなぎっぱなしにしてたE-フォンからヘンリーのうめき声と、ラファエルの魔法が炸裂した音が聞こえてきた。
気を取られた一瞬の間に、人狼は逃げて行った。
捕まえたかったが、仕方ない。
「ヘンリー達が心配だ。こいつら片付けて様子を見に行こう」
亜里沙とリンメイがうなずいて、俺らは新たに現れたモンスターに向き直った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます