その変異ウィルス、調べてみたい
群がってきたモンスターは俺と亜里沙のコンビネーションであっさりとやっつけた。
教会の中に駆けつけると、懺悔室があった辺りは爆破されたかのような壊れ方でひどいことになっている。礼拝堂の椅子なんかも戦闘の影響で倒されたり壊されたりで、こりゃ復旧までにちょっと時間がかかりそうだな。
ヘンリーはかなり深手を負わされたみたいだがラファエルが魔法で癒してくれている。
「そっち、なにがあったんだ?」
「懺悔に来た女性が、吸血鬼でした」
金髪の、十代後半か二十代くらいの女だったそうだ。
屈強なヘンリーが膝をつくなんて、かなり強かったみたいだな。
「こっちは人狼の男だったな。歳は同じくらいだろう」
二人は間違いなく仲間だろう。ゾンビやスケルトンなんかがいたこともあわせて、エンハウンスの下僕と見ていいかもな。
「ハリウォンの大剣は手に入ったんだろう? ダンジョン、どうするんだ?」
ラファエルが尋ねてくるが彼も今からもぐるにはみんな疲弊しすぎてるって判ってるみたいだな。
「ちょっと休ませてもらってからいくしかないよね」
亜里沙にうなずいた。
「……そうか、それが目的か」
「どういうこと?」
「連中がエンハウンスの仲間なら、 俺達の足止めが目的ってことだよ」
月宮が言ってたように俺らが作戦本部で敵の狙いを阻止できるパーティと期待されているなら、敵も同じことを考えていても不思議じゃない。
襲って、足止めして、ダンジョンを進むのを遅らせているってことだ。
「うまくやれるなら殺してしまえといったところだろうが」
「その場合、ひじりんはきっと対象外ネ」
そういや人狼、亜里沙には攻撃仕掛けてないな。俺らを倒してから行動不能にして連れ去る算段だったか?
リンメイの予測を否定できなくて苦笑いが漏れた。
「ハロルド、これはどういうことだ?」
ヘンリーほどじゃないが大柄な外国人がやってきた。こいつがヘンリーの兄貴か。グループ通話で聞こえてきた声と同じだし、なんかいけすかない雰囲気だから間違いないだろう。
「どういうこともこういうことも、ご覧のとおり襲撃を受けたところです。おそらく私が引き受けている任務に関係するものかと思われます」
「襲撃だと?」
めちゃ判りやすくビビってるな。
「判った、また明日改めて来よう」
何がどう判ったんだろうか。
さっさと引き揚げていく兄貴にヘンリーはほっとしてる。
「……まさか、兄貴が手引きしたのではないだろうな」
「まさか」
「いや、兄貴はエンハウンスの手に落ちてしまったに違いない。残念だが世界の敵は排さねばなるまい」
全然残念がってない顔でこじつけてるな。
まだぶつぶつというヘンリーを引っ張って、作戦本部に戻ることにした。
月宮に教会でのことを報告するとあからさまに顔をしかめられた。
もっと文句を言って理不尽アタックでもしてくるかとヒヤヒヤしていたが、それはなくてほっとした。
結局、ダンジョンには明日の朝にもぐることになった。ポーションを大量に使えない、っていうかそんなにポーションに余裕がないから怪我をスキルや魔法で治してMPや闘気は自然回復任せにするしかないし。
次の日の朝、出発の報告のため俺らはそろって月宮の部屋を訪れた。
「このダンジョンにいる魔物だけど、ある特殊なウィルスに侵されていることが判ったわ」
先行するパーティの調査で判明したそうだ。
ウィルスか。研究してみたいな。
「そのウィルスに侵されると、元の生物が何であったか判らないまでに体が変異するそうよ。生物を変異させるとウィルスの性質も変わって、変異させた後の形状を維持するような働きになるらしいわ。わたしには詳しくは判らないけれど、変異した魔物の死骸から取り出したウィルスでは元のウィルスの性質を調べることはできないと報告されているわ」
対象の生物だけでなく自分自身も変異するのか。厄介だな。
「つまり、そのウィルスそのものを手に入れればいいんだな」
「そうよ。ウィルスは『テ・ミュル』、ウィルスを持っているのは巨大なワーム型の魔物で『テ・ミュルエ』と呼ばれているわ。そいつは触手を刺してウィルスを相手に注入しているから、その触手が手に入るのがいいわね。できれば生け捕りがいいのだけれどさすがに大きすぎるから」
「なんでそんな変な名前がついてるアルか?」
おっと、リンメイが俺も感じたことを聞いてくれたぞ。
「ダンジョンから発見された異世界の文章を解読しているのだけれど、固有名詞は異世界の発音そのままをつけているからよ」
なるほど納得。
「魔物の情報については今まで通りタブレットも使えるけれど、Eーフォンからも閲覧できるようになったわ。これからは撮影もEーフォンのカメラですればいい。引き続き、戦って判ったことは帰ってから入力しておいてちょうだい」
最速じゃないけれど俺らも割と早く探索を進められているパーティのようだ。
エンハウンスの計画を止めるには、俺らがトップを走るくらいの勢いで進まないとな。
「それじゃ、行くか」
俺の声に皆がうなずいた。
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