これもある意味フレンドリーファイアか

 カプセルのパネルは赤い。メッセージが入っている状態だ。

 再生スイッチを押す。


『このモニュメントの文字は読めないな。先史文明のものだろうか。もしかすると異世界の文字も入ってるかもしれない。もっとサンプルがあれば』


 前に聞いたリアの声と同じだ。ということはリアはまだ先にいるんだろう。少なくとも今朝の時点では戻ってない。


「リアさん、戻れないって嘆いてたのに、しっかり探索してるみたいね」

「戻るのあきらめたかもしれないアルよ」

「どっちにしても、体もメンタルも強すぎだな」


 俺だったらこんなダンジョンに一人で閉じ込められたら後に来るヤツにメッセージなんか残せない。残すとしたらひたすら助けてくれって言うだろう。

 そもそも一人だけじゃ奥に進もうと思えないし、能力的に進めない。


 俺の考えにみんながうなずいた。

 早く誰かがリアに追いつくといいが。


 モニュメントを見る。表面に模様が彫られている。これが文字かと疑問に思うくらいに見覚えがない。

 先史文明か異世界、か。


 表面に手を触れてみたら、ブオォ……、と低いうなりをあげて刻まれている文字が青白く光り出した。

 起動した? 罠とかギミックとかはないはずだったんだが。


「びっくりしたぁ」

「ついちゃったアルね」

「罠とかじゃないだろうね?」


 ラファエルが疑わしそうな目で見てくるのにちょっとむっとする。倒す敵の順番を無視してやりたいことやってるヤツに非難されたくねぇ。


 辺りを調べてみたが変化はない。どこか違う場所に何かが変わったかもしれないが、今みんなが休憩するのに悪い影響はなさそうだ。

 予定通り、二時間ほど休むことにした。




 何事もなく時間が過ぎて、先に進むことにした。

 次も部屋だ。が、床が抜けてる部分があって、カタカナの「エ」の字のようになっている。

 俺らは下の辺の真ん中近くに出てきた。


 この部屋にも敵がいて、上の辺の左右にリリーが一体ずつと、中央にでかいカマキリだ。

 すかさずリンメイが防御魔法をかけ、タブレットをカマキリに向ける。もう自分の役割として定着してきてるんだな。ありがたい。


「両方のリリーの毒がかかるとまずい。通路の端へ行こう」


 俺が先陣を切って進む。みんなもあとからついてくる。

 が。

 突然、通路の端ににょきっと何かが生えてきた。

 某有名ゲームで見る砲台みたいなヤツだ。


「スーパーマr――」

「みなまで言うな」


 思わず笑って遮った。考えることはみんな似たようなもんだな。


「砲台は俺が引き受ける。みんなはカマキリ優先で。リリーは最後か、余裕があれば魔法で」

「りょーかい!」

「解析できたアルよ。ジャイアントマンディス。攻撃は鎌と糸、単体と複数ネ。糸はこっちの動きを邪魔するアル」


 おおむね予想通りの攻撃方法だな。

 俺が砲台を早く壊せれば、わりと余裕かもしれない。


 砲台は動かないだろうから『破壊の赤眼』の追尾は使わなくていいな。弱点だけ見えるようにして、短剣で斬りかかる。


 赤い点に刃を突き立てるとすぅっと抵抗なく吸い込まれるように刺さる。点から走る赤い線に亀裂が入っていって砲台のHPがぐっと減る。

 砲台からの攻撃は比較的かわしやすい。追尾なんてしてくるのを相手にしてたから俄然やりやすい。

 そんな調子でさくさくと砲台を斬ってたら。


「ぎゃぁーっ! 突進してきたアルよっ!」

「きゃあ! 美坂さんがダメージをっ!」

「私達、無事に戻っても月宮に殺されそうですね」


 カマキリ、データにない攻撃をしてきたか。戻ってから追記しないとな。


 それにしてもヘンリー、何気に冷静に怖い事言わないでくれ。


 俺が砲台を破壊し終えて改めてみんなを見ると、さっきの突進で結構なダメージを受けてしまったみたいだな。


「リンメイちゃん、回復して~」

「判ったアル。『治癒の流れ』」


 リンメイが聖に治癒魔法をかけてるけど、……ん? 魔力の流れがいつもと違うような?


「わわっ? なにこの嫌な感じっ!? HP減っちゃったよぉ」

「発動失敗したアル! 謝謝シェイシェイッ」


 ……は? 


「おいまて、謝謝は感謝の言葉だろうが。魔法失敗してありがとうってなんだよっ!」


 俺がつっこんだことでみんなが戦闘中にも関わらず大爆笑した。


「だって! ママも謝る時、シェイシェイって言ったアルよっ」

「それ騙されてるよぉ」

「『謝る謝る』って書くアルよっ?」

「感謝の謝だっ」


 笑いすぎて腹いてぇ。


 このやり取りが俺への最大ダメージになった。


 俺が参戦したことで戦局は俺らに有利に傾き、あっさりとカマキリは倒れた。リリーは遠方から魔法と銃撃で仕留める。


 うん、最初に見立てた通りだったな。「謝謝」の破壊力以外は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る