瀕死の恩恵
敵の体の弱点が赤く光っているのは同じだ。
特に変化はない……、と思ったがなにか違和感がある。
あ。メデューサの像にも赤い点と線が見える。今まで生物にしか見えていなかった「弱点」が、無生物のも見えるようになったってことか。
だから「破壊」なんだな。
なんとか体勢を立て直しながらそんなことを考えていると、リンメイが回復魔法を唱えてくれた。
これでなんとか動けるな。
辺りをざっと見まわして、改めて戦況を確認する。
鎌ビーストは消えていてヘンリーは聖の方に参戦しているが、二人とも結構ダメージを食らっているみたいだ。
「奔流」
美坂さんの涼やかな声がして、水の槍が俺の前のワイバーンを貫いた。
ワイバーンがフラフラと高度を下げている。
軽く呪文を唱えただけでこの威力。すごいな。詠唱に集中して放ったら一撃必殺かもしれないな。
せっかくもらったチャンスだ。とどめをいただこう。
胸に照準を合わせ引き金を引く。
ワイバーンが逃げようと体を動かした。
微妙にずれるか? 当たれよっ!
強く願うと、俺のMPがぐっと減る。
弾丸の軌道が変わった。まるで逃げるワイバーンの急所を追いかけるように。
……追尾? だとしたらすごいなっ。
胸を撃ち抜かれたワイバーンが光となって消えていくのを確認して、ほっと一息を着いた。
だが安心するのはまだ早かった。
いかにも毒を含んでいそうな紫の霧が漂ってきた。ポイズンリリーが毒霧を吐いたのか。
さらに、メデューサの像が重そうな音をたてて向きを変え始めた。聖達の方に顔を向けようとしている。
どっちをやればいい?
メデューサの像を鑑定した。予想通り石化光線の罠が発動する。効果は一分ほどだがその間はまるっきり動けなくなる。
毒霧のせいだろう、息苦しいがとにかくまずは像の方だな。混戦の中の一分は致命的だ。
石像に見えている「破壊の点」から少しずらしたところに切っ先を向け、突き出しながら「確実に壊す」と念じる。
またMPが消費され、腕が誘導されたかのように傾きを変えて短剣が赤い点の中心に突き刺さる。
石造の破壊の点から伸びる線の上に亀裂が走り、ガラスが割れるように石造が砕けた。
MPの消費は大きいが、どうしてもという時に使えるスキルになったな。
聖達は、美坂さんとリンメイの援護を受けて優位に立ち始めているが、毒が効いているようでヘンリーがかなり苦しそうだ。
先にあっちに加勢するか、毒の根源のリリーをやるか。
俺の逡巡の間に、ラファエルの二撃目が集団に叩きこまれ、その場の敵が一掃された。
迷う必要がなくなったな。
「聖、いけるか?」
「うん」
「ヘンリーは回復してもらってくれ。ラファエル、もう攻撃魔法はいい。俺らの支援を」
ラファエルの返事を待たずに俺と聖はリリーへと走った。
結局、聖の『薙ぎ払い』と美坂さんの水属性攻撃魔法主体でリリーはわりとあっさりと倒せた。
みんなのところに戻ると、ヘンリーが状態異常解除と回復の魔法をかけてもらっていた。
俺と聖も回復してもらうが、パーティ全体でMPや闘気の消費が激しい。魔物から出た回復の魔石を全部使っても全回復には少し足りないくらいだ。
「ここで魔石を全部使うと非常時の回復手段がなくなるな」
「でも回復しないと次の戦闘が大変アルよ」
そうなんだよな。
「一度本部に戻ろうよ」
ラファエルが提案してくる。
それも一つの手だが。
美坂さんが首をふるふると振っている。
『長く時間をかけない方がいいです』
もう声を出す薬の効き目が切れているようで、またスケッチブックに文字を書いて見せてきた。
「では魔石を使ってできるだけ回復し、ここで少し長めに休むということでどうでしょう」
HPは魔法やスキルでないと回復できないが、MPや闘気は休息を取ることでゆっくり回復していく。敵が新たに現れなければ多分二時間ほどでほぼ回復できる。
ヘンリーの提案に皆うなずいた。
俺が魔石を優先的に使わせてもらって、その代わりみんなが休んでいる間に見張りをすることになった。幸い、この部屋は行き止まりだから入口さえ警戒しておけばいい。
みんな揃って、部屋の奥に移動した。
巨大な柱も調べてみないと、と柱を見ていると。
「あ、メッセージカプセルアル」
部屋の奥にある巨大な柱のそばに、リアというイクスペラーが残したであろうカプセルがあった。
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