フレンドリーファイアはフレンドリーじゃない

 結構広い部屋だ。横幅が数十メートル、奥行きは二百メートルほどあるんじゃないかな。


 敵は奥に陣取ってる。なんか、やたら多いな。

 そいつらのそばに天井まで届く太い柱がある。ダンジョンの壁の材質と比べて明らかに異質だ。人工的なものだろうか。

 そして部屋の中央に、明らかにメデューサですありがとうございますな石像がある。アレの真正面に行っちゃダメなヤツだな。


「リンメイ、範囲防御の後に敵を鑑定してくれ」

「任せるアル」


 敵は多いが部屋が広いから接敵までに少し間があるのはラッキーだ。


 見たところ、鎌ビーストが二体、巨大ユリの花が二体、スケルトンが六体、空を飛んでいる小さい竜のようなのが二体。


「鎌ビーストをヘンリーに任せる」

「了解しました」

「じゃあ、わたしと黒崎くんは飛んでるのとガイコツ?」

「そうなってくるかな。鑑定結果次第では相手を替えないといけないかもだが」


 敵がどこに向かってくるかにもよる。できるだけ後衛のところに届かせないようにしないと。


「あと……、敵が多いから、美坂さん、薬使ってくれるか?」


 美坂さんはこくんとうなずいて、小瓶を取り出して中身を飲んだ。


 俺らがそうやって準備している間に敵が部屋の中央まで来ている。ユリもかなりゆっくりだが根っこをずりずりと動かして近づいてきている。


「俺らが前に出る。リンメイ達は魔法が届く範囲で距離を取っていてくれ」


 あんまり固まってると範囲攻撃とか飛ばされる可能性があるからな。


 聖、ヘンリーと俺が敵へと走る。ラファエルに声かけしてないけど、適当なところに魔法攻撃をぶっ放してくれるだろう。


「スケルトンは斬るより打撃に弱いアル。攻撃方法は殴ってくるだけネ」

「りょーかい。峰打ちにすればいいのね」


 君の剣、西洋剣じゃなかったか?


「飛んでるのはスモールワイバーンで口からビーム撃ってくるアルよ。追尾してくるからよけるのがほとんど難しいって」


 厄介だな。


「あと、近くにいる敵が倒れたらパワーアップするらしいアル」


 めちゃくちゃ厄介だなっ。ワイバーンが最優先だな。


「花はポイズンリリー。毒吐いてくるヨ。毒はそんなに強くないけど広い範囲みたいネ」


 リリーが近づいてくるまでになんとか敵の数を減らしておきたいところだな。


 今の位置取りはメデューサの像の右に俺とスケルトン三体、すぐ後ろにワイバーン、像の左前に聖とスケルトン三体とワイバーン、彼女らからさらに左にヘンリーとビースト二体。

 リリーはまだかなり後方だが毒霧の範囲が広いらしいから油断できないな。


 本当ならスケルトンから倒して数を減らしたいところだが、ワイバーンがパワーアップするのは避けたい。

 短剣を抜いてたけど左手に持ち換えて右手で銃を抜いた。まずはワイバーンを落とさないと。スケルトンの動きは鈍い方だから回避は大丈夫だろう。


 飛行能力を鈍らせたいが翼には当たらなさそうだから胴体に狙いを定める。

 命中はするが、あまり効いてなさそうだな。高度を下げてきたら短剣でも斬れるんだが。


 聖もワイバーンに攻撃を仕掛けている。

 ヘンリーの方は、美坂さんの攻撃魔法の援助をもらって一体倒せたようだ。


 直視はしてないが、飛んでいく魔法の魔力量からして美坂さんの魔法はかなり強そうだ。

 ビーストが戦闘不能になればこっちにかなり有利になると期待する。


 ワイバーンが口を開いた。青白いレーザービームみたいなのが発射された。思ってたより攻撃範囲広いなっ。そのうえ追尾とか極悪すぎだろう。


 肩に直撃した。焼けるような痛みに思わずうめき声が漏れた。


 ……って、間にいたスケルトンも食らってるぞっ。HP半減してるじゃないかっ。こいつ、スケルトン殺してパワーアップ狙ってるんじゃ? なんてフレンドリーファイア。


「天の怒りを受けよ。『裁きの光』」


 さらにラファエルの範囲魔法が俺の近くに炸裂してスケルトンは一掃された。ワイバーンはまだ平気そう。


 うわぁ。そこは単体攻撃でワイバーンを狙うところだろっ。


 リンメイが回復魔法を飛ばしてくれたが、またワイバーンのビームを食らう。さっきよりかなり痛い。

 さらに、聖と戦ってるはずのワイバーンまで俺にビームを飛ばしてきた。

 闘気の防御で少しだけダメージを軽減するが、脚から力が抜けた。


 くそ……、ここで倒れてたまるか……。

 片膝立ちでなんとか堪える。


 が、左目が突然激しく痛みだした。あんまりにも痛くて頭痛までしてくる。

 左目の視界が赤くなる。


 これは、「開眼の短剣」をはじめて握った時の感じだ。


 命の危機に瀕した時にスキルがパワーアップする、って月宮さんが言ってたな。


 ということは。


「……破壊の赤眼しゃくがん


 頭にひらめいた新しいスキルの名前を、つぶやいた。

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