先行者の嘆き

 この部屋、横幅は十メートルほどだが、縦に長い。馬の突進にできるだけ巻き込まれないように散開するといっても、ちょっと狭いかな。


 とりあえずヘンリーと俺、亜里沙がそれぞれ左、中央、右に別れる。

 リンメイの式神、黒猫のドドメスとジョージが亜里沙の後方へ、ラファエルはそのちょっと中央よりに動いたところ……。


 馬の突進来た! 亜里沙の方に向かったか。やっぱり人数多いところを狙うよな。

 なんかオーラ纏ってて横にもかなり攻撃判定あるっぽいぞ。


 聞いてた通り、敵もろとも吹っ飛ばしてってる。

 亜里沙は回避したけど、ドドメスが消滅して、ジョージがかなりのダメージ。ラファエルがぶっ倒れた。

 こえぇ。どんな攻撃力だよっ。


「くっそ! ふざけた攻撃を! 『逆襲撃』!」


 ジョージが叫ぶと彼の右手ブレードが綺麗にさくっと手近にいたアディンを切り裂いた。


 攻撃力いつもより上がってるな。スキルの名前からして、ダメージ食らうとパワーアップ、みたいなのか。


 馬がさらに前足をガツガツと床に当てて猛っている。こっちに方向転換しようとしてるな。


 吸われるMPなんか残してやるかっ。

 できるだけ敵を巻き込めるよう移動しながら、右手に力を集めていく。

 練りあがった炎を、ル・アディンとカオスホースに向け、放った。


 久々にMPをフルでつっこんだからこっちにも反射ダメージが入る。MPの総量が増えてるから結構熱い。

 けどその分、『炎竜波』の攻撃力が上がってるからな。ル・アディンが沈んだ。


 俺が攻撃を当てたことで、ジョージが一気に仕留めにかかる。まだ『逆襲撃』の効果が続いているみたいで、気持ちいいくらい、いい切れ味の攻撃がカオスホースの首を斬り飛ばす。ちょっと異音の入った馬のいななきのような声を残して、光の粒となって消えていく。


 よし、一番の脅威が去った。あとはデュアルセイバーが厄介なだけか。


 前衛が四人って、すごい楽だなぁと実感する。

 俺は攻撃力自体はそんなに高くないからジョージの参戦は本当にありがたい。


「回避用品なんだから当然ネ」

「せめて人扱いしてくれぇ」


 リンメイとの掛け合いも息があってるし、な。

 ラファエルのダメージをリンメイが重傷回復している間に、敵の数は半分以下だ。


 カオスホースが倒れたからもうMPを無理に使わなくてもいいのに亜里沙が張り切ってどんどんスキルを使ってるのもある。


「まとめて倒すよっ、『なぎ払い』」

「まだ残っちゃった? 『とどめ斬り』」


 もうそこまで頑張らなくていいぞ、と言いたかったが調子がいいみたいだから任せておく。


 最後まで残っているデュアルセイバーとヘンリーが、また高速斬り合いをしている。横から手を出すのが悪いなぁと思えるほどの剣戟だが、きっちりと隙間を縫って弱点にナイフを叩きこんでやった。


 さほど時間をかけることなく、敵をせん滅することができた。

 魔石を回収、分配して、回復パネルでHPやMPを癒す。


「さて、そろそろエリアボスだと思うんだが……」


 言いながら、部屋を探索すると隅っこにメッセージカプセルがあった。



『もうここから逃げ出したい。そう思うけど帰りのゲートは動いてくれない。地上とも連絡がつかない。このメッセ-ジだって受け取る人なんていないかもしれない。後から調査に来る人だってこんな奥まで入ってこないかもしれない。それともここに来てくれるだろうか? 進めば進むほど希望が無くなってく。けど、進むしかない』



「ついに鬱になっちゃった!」

「そりゃ、帰る手段もなけりゃ誰とも通信もできないんだからな」

「さすがに気の毒ネ」


 またしんみりとしてしまった。


「……さぁ、気を入れなおして奥へ行きましょう。きっと私の兄が正体を現して襲い掛かってくるでしょうから」


 ヘンリーの言葉に思わず噴き出した。まだ兄貴が敵だと思い込んでんのかっ?


「ラファエルさんのお父さんがいても驚かないけどヘンリーさんのお兄さんはいないと思うネ」

「いたらどうするの?」

「非常に残念なことですが、敵の手に落ち、心まで黒く染まった者を助けることはできません。涙を呑んで倒しましょう」

「ヘンリーさん顔笑ってるヨ」


 ……いや、これは俺らを励ますためのジョークだな。亜里沙もリンメイもいつもの調子に戻ってる。


 よし、奥に行くぞ。誰が出てきても行く手を阻むなら倒すのみだ。

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