そんな魔術師に勝てるわけがない
扉の先には、三つの人影があった。
今までいた部屋がめちゃくちゃ広い部屋だったから、戦闘をするのに十分なこの部屋が狭く感じる。その部屋の中央に、いかにも魔術師ですといわんばかりのローブを纏った老人がいて、こちらを少し驚いた顔で見ている。
彼のそばにラファエルの親父さんが、少し離れたところで静乃が佇んでいる。
ラファエル父は息子を見て、にやりと笑った。八重歯と呼ぶには鋭く長い牙が覗く。
静乃は、表情がない。というかうつろだ。完全に操られている状態だなきっと。本部に来ている時はこちらと意思疎通はできていたが、きっと今話しかけてもまともな反応は返ってこないだろう。
それよりも、彼女が来ている鎧がごつすぎる。こういうのを「鎧に着られている」っていうんだろうな。
「ほぅ、ここまで来たのか」
老人が口を開く。見た目の老齢さと比べてかなりしっかりした声だ。
「この時間でこの場所までやってくるとは、予想以上だな。外のゲートを確保したか。まあ、予測の範囲内ではあるが」
「どっちアルか」
小声でつっこんだリンメイに苦笑を送って、じぃさんの話を促す。
「あんたは何者だ。そいつらといるってことはミリーの仲間なんだろうが」
「私はオルト。もう死におったが、エンハウンスに請われてこちら側についておる魔術師だ。ここにいたほうが自らの研究を進められると思ってついておったのだが、これ以上居続けると私も人間と世界意思の最終決戦に巻き込まれるかも知れんな」
最後の方は質問への答えというよりは独り言に近かった。さらに「ミリーの言っていたとおり、人類の抑止力が強くなってきているのだろう」とかつぶやいている。
「魔術師、オルト。……境界のオルト」
ラファエルがつぶやいた。
「知ってるのか?」
「世界七大魔術師と数えられる大魔術師の一人だよ。僕らが戦って勝てる相手じゃない」
「ほぅ、知っておったか」
正体を指摘されてオルトは愉快そうに笑った。が、すぐに皮肉めいた表情になる。
「おまえ達の作戦本部の指揮を執っておる富川亮とかいう若造と一緒にされるのは遺憾だがね」
富川さんもその七大魔術師の一人なのか。すごいな。さすがこんな大きな作戦の指揮を執るだけのことはある。オルトは納得していないみたいだが。
しかし、そんなすごいのが相手となるとラファエルの言う通り、俺らがどうこうできる相手じゃないな。
さてどうするか? 戦わずこの先に通してくれるよう説得するか?
とか考えていたら。
「おまえ達、私の創った魔獣と、この者達と闘ってみるがよい。もしも勝てたならこの先に進ませてやろう。私はこの件から手を引く」
さっきのオルトのつぶやきからして、俺らが「人間の抑止力」としての力を持っているなら、さっさと手をひいてトンズラかます、ってことだな。
逆に俺らが負けるようなら、復活した“ディレク・ケラー”の管理下で人間をコントロールするミリーの側に残って好きに研究を続ける、ということか。
俺としては直接オルトとやり合うより彼が出した条件の方が勝機が見えるからそれでいいと思うんだが。
みんなの顔を見る。
考えることは同じらしく、みんなしっかりとうなずいた。
「いいだろう。その条件でやりあおう」
俺が代表して答えると、オルトはスーツケースのような鞄を床に置き、口をこちらに向けて開けた。
出てきたのは、巨大なウサギだ。二メートルぐらいある。そいつの両サイドにラファエル父と静乃が二メートルほど距離を置いて並ぶ。
「誰が誰に?」
ヘンリーの短い問いかけに、ちょっと考える。
「静乃の鎧は硬そうだ。ヘンリーに任せる。亜里沙はウサギを頼む。俺はラファエルの親父に向かう」
「あの、できれば、二人を助けてほしい」
ラファエルの懇願に、肯定しきれなかった。
「できるだけ、な。もしも全力を出さないとマズい状況になったら、覚悟はしておいてくれ」
「う……、うん」
背中に聞こえる声は、納得はしていないが仕方ない、ってところかな。
そんなやりとりの間にラファエル親父が魔法を唱え始める。
「親父さんに大魔法をうたせるな。おまえがそれを成功させたなら俺らの側にかなり余裕ができるから生存確率があがるぞ」
俺はラファエル親父に走り寄りながら、短剣を投げつけた。
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