押しとどめる声
呪文詠唱をやめてくれないかと短剣を投げたが、ラファエル父は腹に短剣が食い込んでも構わず詠唱を続けている。意地でも魔法を放つ気だな。
「ラファエル!」
「うん。――彼の者の魔法の発動を止めろ、『魔法阻害』」
これで魔法がストップすれば。
「ふはははっ! 所詮おまえの力では私にかなわないのだよ。『大旋風』」
おいおい、この前の再現じゃないかっ。まさかまた闘気をケチったんじゃないだろうな?
とりあえず俺はスキルで気配遮断をして攻撃対象から外れる。
大嵐が巻き起こり、部屋の中を舐めつくした。
ヘンリーは防具の特殊能力でダメージを打ち消した。彼の魔法防御の支援でリンメイもなんとか動けるみたいだな。
だが亜里沙やジョージ、ラファエルもボロボロだ。
俺らの方が決定的に不利になった。
クソ親父が。ただで済まさないぞ。
「目標は元のままだ」
短く告げて、再びラファエル親父へと走り寄って床に落ちていた短剣を拾う。先の方が血に濡れているがさほど深くは刺さっていなかったみたいだ。
また何か魔法を唱えようとしていたラファエル父だが、俺が眼前で睨みをきかせてると呪文詠唱には入れないようだ。
そりゃそうだよな。詠唱中は無防備だ。俺の攻撃をそのまま食らったらきっと一撃で戦闘不能どころか下手すりゃあの世行きだ。
進んで殺す気はないけど、これ以上脅威になるならやむなしだ。
俺とラファエル父が睨みあっている間に亜里沙とジョージがウサギに、ヘンリーが静乃に接敵した。
「神をも封じる力を、『封神の虹眼』」
亜里沙がスキルを発動させ、七色に光をウサギに叩きつける。
まさに一刀両断。ウサギは消え去った。
が、次の瞬間、また何事もなかったかのように現れる。
「えっ、どうなってるの?」
亜里沙やジョージが戸惑いながら攻撃をしかける。確かに攻撃は入っている。だがウサギはやられてもすぐに復活してしまう。
一方のヘンリーも静乃に苦戦している。
「世界結界……?」
彼のつぶやきから、真祖が使っていたバリアを思い起こす。
「私の作ったレプリカとはいえ、『事象無転』はちゃんと働いておるようだな」
オルトが満足げにうなずいている。
それって“ディレク・ケラー”の封印時に活躍した、超常的な現象を無効化するってやつか。つまり異能者としての力が一切通じない、と。
「ラファエルの父君とウサギをどうにか倒してから、皆で囲んで殴るしかないのでしょうかね」
ヘンリーの言葉通りの光景を想像して笑ってしまう。どこの荒くれ集団だよ。
とにかく、ラファエル父をまず抑えないと。
「亜里沙に、みんなにダメージを負わせたつけを払わせてやるよ。『崩壊の赤眼』」
いつもの頭痛を覚え、ラファエル父の弱点が赤くはっきりと見える。さっき短剣で傷つけた腹が一番狙いやすそうだ。
短剣を振るう。
魔法防御で思ったほどのダメージになっていない。
手加減はいらないか。
もう一度、今度はためらいなく突き出す。肉を断つ感触に破壊衝動が刺激されたのか、このまま致命的なところまで、と思ってしまう。
いいじゃないか。今更一人殺したところで何も変わらない。こいつの魔法のせいで亜里沙が――。
頭が、いっそう激しく痛んだ。
『憎いから殺すのか。ならばおまえと彼ら、何が違う? 滅びを避けるのではなかったのか?』
世界結界の、声。
彼ら、って、ミリー達か。
『おまえは彼らとは違い、破壊を避け世界を救うと言っただろう。仲間の父親をさらりと見捨てるおまえに、それができるのか?』
はっとする。
「――あぁぁっ!」
最後の一押しの手を、止めた。
ラファエル父がくずおれる。
……動かない。駄目だったか?
「ああぁっ! 親父っ! 黒崎君っ。ひどいよっ!」
ラファエルの非難の声が耳に痛い。
「これでも手加減したんだ」
彼にというより自分と世界意思に弁解しているなと、判ってる。
「大丈夫ヨ! ラファエルさん。お父さん生きてるネ」
リンメイが断言してくれた。
よく見ると、弱々しいながらも背中がかすかに上下している。呼吸してると判ってほっとする。
それにしても。
世界意思はどうして俺を止めたんだろう。
破壊の先の再生を目指しているんじゃなかったか? それは“ディレク・ケラー”に込められた世界意思だけ、だっけ?
戻ったら富川さんに聞いてみよう。
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