巫女の次は神父で、さらにゾンビ?
リンメイがテレビを見ている間に聖がこっそりとあのダンジョンと行方不明の人達について尋ねてきた。が、内閣調査室勤めの母を持つ彼女が知らないことを俺が知るはずもなく。
「そういえば黒崎くん、昨夜吸血鬼に会ったって本当?」
「もうそんなこと知ってるのか。さすが諜報組織」
「あのダンジョンのことと関係あるのかな」
「あるんじゃないかな、あの男――」
「あー! リンメイがテレビ見てる間に二人が怪しいアル! 何の話アルか?」
なんだよ、ちゃんとテレビに集中しておけよ。
「おまえには関係ない」
「くろちゃき冷たいネ。ネットに実名で悪口かいてやるヨ」
「おまえ殺されたいか?」
「いやーん、こわーいネ」
あぁ、こいつの相手は疲れる。
「二人、仲いいね」
さらに聖まで何を言い出すんだっ。
もう構ってられるか。論文の続き読もう。
PCに向かうと、インターホンのチャイムが鳴る。
くそ、どいつもこいつも邪魔ばかりだ。
マンションの玄関カメラに映ってるのは、……神父?
背の高い外国人が黒いコートのような独特の服を着て、胸にロザリオをさげている。
しかしこいつもがたいがいいな。昨日のヴァンパイアといい勝負だ。
“お話よろしいでしょうか?”
英語で問われて、思わず即“No.”と応えてモニターを切っちまったが正解だろう。こんな時に宗教勧誘とか聞いている余裕はないぞ。
またチャイムが鳴る。一度、……二度、三度。
“やたら鳴らすなっ”
“私は神の導きによりこちらに参ったのです”
“んな導きいらねー。迷惑だ、帰れ”
“そうはいかないのです、黒崎章彦君。あのダンジョンについてお話を――”
こいつもダンジョンのことかよ。
“話すことなんてない”
ぴしゃっといって、モニターを切る。またチャイム連打しないかと身構えてたけど、今度は大丈夫みたいだな。
「何だったの?」
「宗教の勧誘」
リンメイがいるからダンジョンのことを聞きに来たとは言えない。
「黒崎くん、英語ペラペラなんだね。すごい」
「あー、俺アメリカで育ったからな。アメリカの学校に通って学年飛ばして卒業して、今は薬学の研究員だ」
あと五年ぐらいで親父の会社に転職して諜報員になるけど。
「エリートなんだね」
尊敬のまなざしを向けられるが、……俺はそんないいもんじゃない。
なにせ産まれが判らないんだから。親父は俺を孤児院から引き取ってくれた、つまり養父だ。
どうして俺は孤児院にいたんだろうか。考えても仕方のないことだけれど。
「どうしたの? なんか暗い顔になっちゃって」
「あぁ、いや、なんでもない」
俺はまた、パソコンの前に戻った。
夜までは何もなかった。
聖とリンメイに夕飯の買い物に行ってもらってる間、これからどうすればいいのか、どうなるのかを一人で考えていた。
中谷副社長や内閣調査室がもう普通に生活してもいいというまで俺はマンションに缶詰だろう。その間、聖やリンメイに買い物とかを頼むとして……。
一体何日こうやってればいい?
俺に研究員として残された時間はもう少ない。なのにやりたいこともやれずにただこもってるだけなんて。
親父は俺を自分の後継者にするために孤児院から引き取った。けれど十歳の時に原因不明の病に倒れてしまって生死をさまよった。
だから俺は親父に頼んだ。諜報員になるための訓練も受けるから、薬学の勉強もさせてほしい、と。自分が一体どうして倒れてしまったのか、調べたかったんだ。
そのタイムリミットが二十五歳、五年後だ。
あと五年で大きな研究成果が出せるとは、思えなくなってきた。いっそすっぱりあきらめて諜報員としての活動に専念した方がいいんじゃないかと思えてくる。
……っと、考えがそれてきたな。
缶詰状態をどうにかするには、昨日のダンジョンの謎に内閣調査室がたどり着くのを待つしかないのかな。
それとも、こっちから調査に協力すると言えばいいのか?
ただ待つだけよりは、自分で動きたいところだ。
そんなふうに考えてると、スマホに着信だ。
『もしもし黒崎くん、大変なことになってるよ』
聖の焦った声。
『ゾンビみたいなのが五匹? 五人? 黒崎くんのマンションに向かってるっ』
ゾンビ? こっちに?
首謀者として思い至ったのは昨夜のヴァンパイアだ。
「判った。外に出る。マンション裏の人目のないところで迎え撃つから聖達も協力してほしい」
『りょーかい!』
通話を終えて、ひとつため息をつく。
俺がどう考えようと悩もうと、事は動くってことだな。
「武具装着」
キーワードを唱えるとスキルが発動して、イクスペラーの装備に早変わりだ。
短剣を手に、部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます