武闘派神父の一撃は強力

 いくらイクスペラーが世に認められてるからって、ダンジョンじゃないところで抜き身の武器を持ってたら銃刀法違反になる。ダンジョンのモンスターが外に出てきた時は例外だけれど。


 今回はダンジョンのモンスターじゃなくてあのヴァンパイアが呼び出したゾンビで間違いないと思うけれど、違いを証明するのは難しいだろう。


 俺はスキルで気配を消してマンションを出た。


 聖達が向かったコンビニの方を見てみると、確かにうごめく何かがこっちに向かってきているのが見える。人のように見えるが、動きがぎこちない。

 幸い他に人はいない。俺はここでスキルの効果を切る。

 すると連中は獲物を見つけたとばかりに足が速くなった。


 だんだん実物が見えてくる。


 うわっ。

 心の中で悲鳴をあげる。

 それらは、まさにゾンビだった。


 ある者は首が明らかにありえない方向にねじ曲がっているが視線はこっちをみている。

 ある者は腹に深い傷があって血が生々しく服を汚してる。どう見ても致命傷だろあれ。

 そんな感じで五体のゾンビはみんなどこかに「生きてるはずないだろうそれ」な怪我があるのに平然とこっちに向かってきている。


 違う気配を感じて上を見る。

 いた。上空に一人。顔はあまり見えないが気配そのものが昨夜のヴァンパイアだ。


 視線をゾンビに戻す。もう俺まっしぐらって感じだから俺が移動してもついてくるだろう。

 聖に言った通りにマンションの裏手にゆっくりと向かう。こっちでもすでにゾンビがいて挟み撃ちでした、なんてマヌケなことにならないように警戒する。

 よし、誰もいない、何もいない。


 やがてゾンビがやってくる。

 ゾンビといえば腐ってるのが定番だけど、こいつらはゾンビなりたてだからか肌に血の気がないだけだ。見た目や臭いなんかの嫌悪感は少ないが、死んだばかりの人間らしいのを攻撃するのに、聖やリンメイは抵抗ないだろうか。


 俺はないけどな。たとえこの中に知り合いがいても。

 ナイフを構え、腰を落とす。


 ゾンビどもは散会するつもりらしい。頭いいな。それとも上のヤツの指示か?

 囲まれないように、左の先頭のヤツに斬りつけてそのまま抜ける。


 ちょうど聖達が到着した……、って、一人増えてるっ?


“これも神のお導きです”


 神父服に似合わない大剣を両手で持った、昼間の神父だ。イクスペラーだったのか。しかも前衛。神父は癒しや補助魔法なんてイメージを根っこからぶっ壊してる。


「助けてくれるって。“I help you.”ぐらいなら聞き取れたよっ」


 聖が嬉しそうに言うのに今は素直にうなずいておく。


「俺は短剣、聖は片手剣、リンメイは補助と回復だよな?」


 二人の返事を待ってパーティ構成を英語で神父に伝える。


“では私とヒジリが敵の前から、貴方は後ろ側に回れるなら。リンメイの魔法の届く範囲が理想ですがその辺りの調整はご自分で”

“了解”


 迫って来たゾンビに斬りつけながらリンメイに補助魔法を要請する。


「判ったネ。邪悪から身を守る強さを。『防御強化』」


 これなら少々の攻撃には抜群の防御力を発揮してくれるだろう。自分自身のスキルで素早さをあげて、俺は一気に敵の背後へと回り込む。


「この剣で一網打尽よ。『薙ぎ払い』」


 聖の範囲攻撃、昨日より強力になってる気がする。ゾンビどもはかなりのダメージを負ったようで動きがさらに鈍っている。


“死者は地に帰りなさい。『浄化の剣』”


 神父さんは自分の武器に聖属性のエンチャントをかけてゾンビの一体を頭から斬り伏せる。一撃でとどめだ。攻撃力高い。


 ゾンビは俺に向かってこようとするが、それは聖達に背を向けることになってしまい、さすがにそれはまずいと判っているようでまごまごしている。

 うまく挟み撃ちができたのはラッキーだったな。


 補助や回復の必要がほぼなくなったリンメイも攻撃魔法を飛ばし、戦局は一気にこちらが有利になる。


 ふと、上空の気配が消えた。

 これ以上戦いを見るのも無駄だと思ったのか。

 気をそらした俺の胸にゾンビの拳が当たる。結構痛いなっ。

 完全に勝つまできちんと集中しないと。


 ほどなくして、ゾンビは全部行動不能になった。


「勝てたネ。でもどうしてゾンビなんかが来たアルか?」


 リンメイがきょとんと首をかしげる。


「黒崎くんを狙ってたみたいよね。やっぱりあの――」


 聖が言葉を切ったが彼女が言いたいことは察せられる。

 あの空にいたヤツが狙ってきてたのかな、ってところか。それが昨夜の吸血鬼じゃないかと聖は想像してるだろう。


“空にいた何かを気にしていましたね。あれは誰なのか、貴方はご存知なのでしょう?”


 神父さんが尋ねてくる。


「ちょっと、待ってくれ。とりあえず俺の部屋に行こう。話はそれからだ」


 聖と俺はそれぞれの組織に連絡した方がいいだろう。

 関わってしまったからには何かしらの説明をしないといけないんじゃないかと俺は思う。どこまで話していいのか、あるいはこの状況でもだんまりを決め込むのか、確認しないといけない。

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