一人だけお泊り気分のヤツがいる

 部屋に引き揚げてすぐ、中谷副社長に電話を入れた。

 事の経緯を説明して、ここにいる人にどこまで話していいのかを訪ねる。


『「陰陽寮」と、おそらく神父は「教会の剣」だね。君が知っていることは話してくれていいよ』

「なんだか含みのある言い方ですね。俺が知っていないこともたくさんあるってことですか」

『そうだね。そのうち明らかになると思うけれど、いろんな組織があのダンジョンの調査に乗り出していて、協力体制を敷くことになったそうだよ。君や、多分そこにいる人達も調査のメンバーに入ることになると思うから、心積もりをしていてほしい』


 それだけ、あの村のそばのダンジョンは今までのと大きく違っているということだ。

 中へと呼び寄せる声がしているのも、それにつられてダンジョンに近づいた動物が魔物に変わっていくのも今までにないことだから、もっとまずい事になる前にしっかり調査しようってことだな。


 電話を切って、リビングに行く。

 なんか、三人が打ち解けてる雰囲気だが。


「あ、黒崎くん。ヘンリーさんって日本語話せるんだって」


 ヘンリー? あぁ、神父さんのことか。


「改めて、はじめまして。『教会の剣』から来ましたハロルド・ウィンスローです。ヘンリーとお呼びください」

「なんで最初から日本語で話さないんだよ」

「緊張したり気が急いたりすると日本語が出てこないのですよ。まだ日本の教会にやってきて二年ほどなので」

「緊張してたのか」

「えぇ、ちょっとだけ」


 そのわりには日本語流暢だけど、まぁいいや、そういうことにしておこう。


 四人で自己紹介をして、俺と聖が昨日の探索の事について話した。


「ダンジョンに近づいたら動物が魔物になるカ? 怖すぎるアル」

「今までそういうことがなかったから、組織を越えて協力して調査することになったんだってさ」


 そのうち俺らにも関係組織から声がかかるだろうと伝えると、わりとみんな乗り気のようだ。

 特に聖は、村の人や遠足の子供達がどうなったのか、すごく気にしてるし。


「多分もうあの吸血鬼は来ないだろうから、みんな帰ってくれていいぞ」


 俺の一言に三人は顔を見合わせて、それぞれスマホでどこかと連絡を取り始めた。


「もしもしお母さん? 黒崎くんの護衛って継続?」

「ママー、くろちゃきんとこ泊まってもいいアルか?」

「ダンジョンのことは聞けましたが、この後の任務はどのように?」


 リンメイ、なんで泊まること前提に許可もらおうとしてんだよ。

 三者三様の電話はほぼ同時に終わり、三人は俺に向かって一斉に答えた。


「まだ護衛してほしいって」「泊っていいアルよ」「護衛任務に切り替わりました」


 なんか一人だけ違うんだが。


「多分小手調べだったんだろうから今日はもう来ないと思うんだけどな……。それよりも、ベッドとか布団とか、ないぞ?」

「わたしとリンメイちゃんはリビングのソファで寝かせてもらうよ」

「私は貴方の部屋で、床でもいいですよ。ザブトゥンがあればありがたくお借りします」


 座布団だな。


 なんだか押し切られる形になったが、仕方ない。

 吸血鬼は来ない可能性の方が高いが、絶対に来ないとは言い切れないし、な。




 次の日の朝早く、せわしないノックの音で目が覚めた。


「黒崎くん、黒崎くん、大変だよっ」


 聖の声にむくりと起き上がって、ドアを開ける。


「なんだ?」

「すぐにあの村に行ってほしいって、お母さんから」


 実は昨日から内閣調査室ダンジョン課があの近辺の詳しい調査に入っていた。だが今朝になって何かトラブルが発生したらしい。応援を求める電話が入ったが要領を得ないまま通信が途切れ、それ以降つながらないという。


 一刻を争うかもしれないな。


 俺は自分のバイクで、三人は聖の母が手配したタクシーが到着したら、すぐに村に向かうことにした。

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