人払いの結界の中で
交通事情の関係で俺の方が先に村の近くに到着した。
少し離れたところから見るだけだと、何も変わっていなさそうだ。
けれど、バイクを降りて近づいていくとすぐに異変に気付く。
村に入ろうとする俺を思いとどまらせる「何か」がある。
気を抜くと、ここに来てはいけない、入ってはいけないという考えが勝って引き返そうとする。
これが、もしかして結界ってやつなのか。
立ち入られたくない場所に人を近づけないようにするって技、あるいは術だな。
けれど、それほど強くはない。というか、ほころび? みたいなのがある。ある場所に行くと「入ってはいけない」という思いが強くなり、ある場所に行くと弱くなる。
結界が脆いのか?
とにかく行くしかないだろう。
聖に『人払いの技がある。弱い所を見つけて入ってきてくれ』とメッセージを送って、俺は結界の中に無理やり入り込んだ。
中に入ってしまうと影響はないらしく、戻らないとという思いは湧いてこない。
それよりももっと問題なのは、人間同士が戦っているってことだ。
結界って人払いだけじゃなくて中の様子を見られないようにもしているんだな、と変に冷静に考えてしまった。
複数の人が二手に分かれて武器を振り、あるいは素手で殴り合っている。
よくよくみると、動きがぎこちない連中がいる。大きな怪我をしているからかと思ったがあれは……、ゾンビだな。
まさか。
上空を見る。
やっぱり、いた。あの影だ。かなり上の方だから顔とかは見えないが、多分同じヤツだろう。
影はすぅっと森の奥の方へと飛んでいく。あっちは、ダンジョンの方だ。
追いかけたいところだが、まずはここをどうにかしないといけない。
『ゾンビと交戦』
短くメッセージを送って、俺は人間側に手助けを申し出た。
戦ってるのは武装しているものの、あまり戦い慣れてなさそうな男達だ。ついさっきまで仲間だったモノへの攻撃にためらっている、ってのもあるだろう。それでもなんとかやられないようにと自分を奮い立たせているに違いない。
俺が、俺らがやったほうがあとくされなさそうだな。
特に苦戦していそうなところに飛び込んで、ゾンビの首を掻き切る。
助かった、という安堵と、ためらいなく斬る俺への少しの恐怖を混ぜたような目で見られるが構うもんか。
やがて聖達も到着して参戦したことで、ゾンビは比較的楽に全滅できた。
「俺はナカタニ製薬研究所のイクスペラー、黒崎です。どういった状況だったんですか?」
生き残った男達の、リーダーらしい男に尋ねる。
彼らは内閣調査室ダンジョン課の人達だ。昨日からこの村の調査に来ている。
村に入るところで感じた違和は、やっぱり人払いの結界だったみたいだ。村のことを公にしないようにとの配慮だ。
ところが、今朝になってヴァンパイアがやってきて結界が破られてしまった。
ところどころが弱いと感じたのは、急いで結界を張りなおしたから完全なものにならなかったってことだな。
ダンジョン課の人達は必死に戦ったけれどヴァンパイアには到底かなわなくて、しかもやられた人をゾンビに変えられてしまったのだそうだ。
倒された人の中にイクスペラーはいたけれど、生き残った彼らはイクスペラーではないらしい。彼らもそこそこの戦闘訓練は受けているけれど、化け物となると勝手が違う。
元は異能者のゾンビと、仲間意識がまだ残ったままの「一般人」だと勝負は見えている。間に合ってよかった。
「奥のダンジョンも調べたのですか?」
「はい。あまり強い敵が出てこない辺りまでは。特に変わったところもありませんでしたし、他に人を見かけることもありませんでした」
行方不明者は行方不明のままか。
「黒崎くん、わたし達でもう少し先も調べてみようよ」
今日はまだ来たばかりで消耗もほぼない。
「そうだな。ヴァンパイアの動きも気になるし」
昨夜の影がダンジョンに向かったことを伝えても、聖達の意思は変わらないみたいだ。
それなら、行くか。
ここの処理は調査室の人達に任せて、俺らは村の奥へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます