自分の主義を曲げろと説得するようなもの
外に出てみると。
「月宮さんのところに一緒に行ってお友達を助けましょう」
亜里沙が魔石でMPや闘気を回復させていて、そばでテイマーのサリーが嬉しそうに目を輝かせている。
おいおい、マジか?
「おい。よせ」
亜里沙の手を止めると、厳しい顔で俺を睨み上げてくる。
そんな顔をされると胸が痛いが、亜里沙が行動を起こすともっと痛いことになる。
「放してよ! 助けに行かないと」
完全に感情的になってるな。ここは冷静に説得するか。
「勝てっこないだろ」
「今本部にいるじゃない。その間に」
「月宮ぐらいの能力者なら家に侵入を試みた時点で駆けつけてきそうだろ」
「それでも、行かなきゃ」
「相手が話を聞かないからって力ずくでいくなら、結局相手とやってることは同じじゃないのか?」
「でも、月宮さんは話を聞いてくれそうにないんだから、このまま放っておくわけにも行かないじゃない。この子の友達、肉体的にも精神的に壊れちゃうよ」
「だからといって勝てないヤツに無謀に突っ込むのを黙って見過ごすわけには行かないんだよ、俺としては。パーティにとっても、君が欠けるのは大きな痛手だからな」
亜里沙は顔を赤らめた。反論が飛んでくるものと思っていたがトーンダウンして「じゃあ、どうするのよ」とつぶやくように言った。
「もう一度月宮と話をしてくる。俺が戻るまで、待ってろよ。決裂したら、別の方法を考えよう」
「……判ったわ」
よし、亜里沙を引き留めるのは成功した。
「黒崎君、完全に聖さんの下僕だね」
ラファエルがイヤミったらしくいってるのに、ムカっとくる。
「下僕になった覚えはない。 俺は、俺の考えで行動しているだけだ。双方の話を聞いて何もしないで高みの見物決め込んでるおまえにとやかく言われる筋合いはないな」
「黒崎が説得に行くなら様子を見ましょうか。……それとラファエル、黒崎は聖の下僕でなく、愛の奴隷なのです」
おいヘンリー。力が抜けること言うな。
ということで、もう一度月宮の部屋に戻ってきた。
「亜里沙は押しとどめた」
「そう。わたしは別にどっちでもいいのよ。来たら潰すだけだから」
やっぱりそうか。
「サリーの友人を解放する気はない、と」
「なぜわたしが敵対した者を許してやらないといけないの?」
だろうなぁ。
「その仲間をいつまでも確保してるから、残りの連中が付きまとってくるんじゃないのか?」
「もう一度会ったら殺すと言ってるのに、うろつく方が悪いのよ。さっきも言ったけれどあの子の仲間を捕まえたのは、いわゆる見せしめよ。わたしに刃向かえばどうなるのか、あの子にも、周りに知らしめておけばうっとうしいザコどもはやってこないでしょ?」
だろうなぁ。
「あんたの言い分はよく判るよ。俺だって、あんたと同じ立場なら、相手を排除する事も厭わない。見せしめの効果があるならその手段も取る。けど……。それを承知の上で、頼む。サリーの仲間を解放してやってくれ」
頭を下げる俺に月宮は鼻で笑った。
「そんな頼みごとを聞いてやる義理はないわ」
くそっ、自分の考えを曲げろと説得するようなものだ。
説得が駄目なら少々の脅しを混ぜるか。
「亜里沙はあんたの管轄する俺らパーティの主戦力だ。勇者候補でもあるんだろう? 失ったらあんたの損失にもならないか?」
「聖の代わりならいるわ。聖が抜ければ補充するだけよ」
「せっかく整ってきた俺らの連携が崩れる」
「それはあんた達が何とかする問題よ。探索中の戦闘で死んで仲間が代わってもそうでしょう?」
その通りだな。
「だったら、なにか交換条件があればいいのか?」
「そうね、あの子を解放するに見合うものがあれば考えてやるわ」
「なにが欲しいんだ?」
「あんた次第よ。何ができるの?」
ここから崩すしかないか。問題は俺が差し出せるものなんてたかが知れてるってところだ。
少し考えて、切り出す。
「これからこのダンジョン探索に関する自分への報酬を一切受け取らず あんたに渡す、というのは?」
「あんたに払われる金をもらったところで研究材料の代わりにはならないわ」
人質を研究材料って言った! やっぱどこかネジが外れてるよなこの人。
こうなるともう、俺の命ぐらいしかカードがないぞ?
……ん? 研究? 命?
これで駄目なら嫌われてでも憎まれてでも亜里沙にはあきらめてもらうしかないが……。
「『崩壊の赤眼』に関する研究なら、どうだ」
月宮の表情が、少し動いた。
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