対立する主張

「くっ、なにこの光っ」


 まぶしいほどの七色の光が消えると、テイマー女子の体をその光がからめとっているのが見えた。

 亜里沙の新スキル? いや、七色の光自体は前にも出ていたから、パワーアップかな。


「……封神ほうしん虹眼こうがん


 亜里沙がつぶやいた。


 それがスキルの名前か。「ほうしんのこうがん」ってどう書くんだろう。あとで聞いてみよう。


 あ、亜里沙の闘気がすっかりなくなってる。ということはこれが修行の成果なのか?


「おまえ達、あいつらを攻撃してっ!」


 テイマー女子が後ろの蜂に命じた。命令に従って蜂がものすごいスピードで飛びまわる。やっぱりうっとうしいな。

 蜂と女子を巻き込むように『炎竜波』を放つ。全力でいったのでこっちにも反動ダメージが入った。


 テイマーはガードをして炎をしのいでいる。闘気をかなり消費したみたいだな。


 続けてラファエルが『裁きの光』を唱えた。これで蜂は全滅だ。テイマーはまたガードをする。闘気のステータスバーがまたぐんと縮んだ。


「えっ? ダメージなし?」


 自信満々だったラファエルが信じられないというように顔をしかめる。

 俺の全力奥義でもダメージちょっとなんだぞ。敵の闘気をごっそり削っただけでもよしとしてくれ。


 ヘンリーの攻撃にはもう闘気を振れないようで、HPも減り始める。


 こうなったらもう、俺らのペースだ。


 反撃のGに顔をしかめつつ、急所に一撃をくわえて、行動不能に陥らせた。


 はぁぁ、あんまりダメージ食らわなかったのに、なんだこの疲労感は。


「とにかく、一度本部に戻ろうよ」


 亜里沙の提案にみんながうなずいて、変異体の死骸を軽トラックの荷台に積んで、俺らは本部に戻った。


 俺はバイクだから知らなかったが、捕らえたテイマー女子が最初は「月宮の所に連れていくぐらいなら殺せ」と騒いでいたそうだ。

 で、逃亡不可能と知ると、今度はぶつぶつと独り言を繰り返すだけになってしまったそうだ。


 なんだ? 精神的にマズいことになった? 月宮と何か因縁があるのか?


「お父さん、お母さん、ごめんなさい。わたしは人として死ぬことができそうにありません……。モモちゃん……、助けられなくてごめんね。でも、2人一緒だから怖くないよね……」


 消え入りそうな声を何とか聞きとると、こんな感じのことをつぶやいている。

 みんなにつぶやきを伝えると、亜里沙が「それってどういうこと?」と尋ねた。だがもう誰の言葉も耳に入っていないらしく、ぶつぶつやってるだけだ。


 亜里沙は何かを考えているような顔をしてから、「あっ」と声を上げ、女の子を連れて月宮の部屋へとずんずん歩いていく。

 俺らも彼女の後を追った。報告は必要だし、な。


「なに? その子、また来たの? だったら――」

「今すぐこの子のお友達を解放してっ!」


 えっと? 話が読めないな。


「この子のお友達を捕まえて人体実験してるんでしょ?」


 マジか? ……月宮ならやりかねない、とも同時に思ってしまったが。


「人体実験じゃないわ。魔道具の実験に使っているだけで」

「おんなじでしょ!」


 うわ、答えがいかにも月宮だな。


 ヒートアップする亜里沙を抑えて、月宮にどういうことなのかを尋ねる。


 数か月ほど前だろうか、月宮はとある遺跡に魔道具を取りに行っていた、そこでこのテイマーと友人二人と遭遇した。

 魔道具をめぐって争い、月宮が勝った。


 まぁ当然かなぁ。


 で、月宮は「わたしに敵対するなんて生意気ね」と女の子のうちの一人を捕まえた。


 ここからは亜里沙がさっき思い出したことを追加で話してくれた。


 なんとか逃げ出した残る二人は、友人を助けようと修行を積んでいるのだとか。

 強そうな相手に挑んでいるのは、そういう理由があったんだな。


「魔道具は月宮さんが手に入れたんでしょう?」

「当然よ」

「だったらもういいじゃない。解放してあげてよ」

「なぜ? わたしに歯向かってきた者がどうなるのか、きちんと判らせておかないと、しょうもない連中がどんどんやってくるわ」


 抑止力としても意味がある、ってか。


 まいったな。

 月宮の方針は、俺とほぼおんなじなんだよな。二人のやり取りを聞いていて、月宮の方が正論を言っているように聞こえてしまう。


 ただ、このまま亜里沙を放っておくことはできないな。

 無茶しかねないから。


「この子の友人はどこにいるの?」

「自宅の地下室に閉じ込めておいたかしらねぇ」

「そう、判った」


 亜里沙が女の子、サリーとい名前らしい――を連れて外に出ようとする。


「この子はおいていきなさい」

「いやよ。わたしだって友達がさらわれてるんだから、この子の気持ちが判る。これ以上、同じようなつらい目にあってもらいたくない」


 その点では亜里沙の気持ちもよくわかる。


「彼女はあなた達に敵対して攻撃を仕掛けてきたんでしょ? なぜ庇うの? 理解できないわね」


 うん、この点では月宮に同意だ。


「だって、事情をしってしまったんだもの」


 ……そういうのを放っておけないのは、亜里沙らしいのかもしれない。


「面倒ね。……一度だけ見逃してあげる。次来たら容赦しないわよ」


 月宮が折れる形で放免された。

 亜里沙はサリーを連れてさっさと部屋を出ていく。


 月宮が面倒くさがりでよかったな。

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