挑戦者の女子が使役するのは

「亜里沙、アレ、知り合いか?」


 虫を従えている女の子について聞いてみる。多分知らないんだろうけれど。


 亜里沙はちょっと考え事をする顔をしてから、あ、と小さく声をあげる。


「イクスペラーに勝負を挑んでいる女の子がいる、ってSNSで見たことがあるよ。勝負だから、勝っても相手を殺しちゃうとかそういうのはないけれど、うっとうしいし厄介だ、って」


 確かにこの状況、うっとうしいし厄介だ。


「SNSでそんな噂とかあるのか」

「イクスペラー同士で情報交換してるよ。わたしも毎日覗いてるんだけど……」


 亜里沙の顔がちょっと曇った。

 何かよくないやり取りでもあったか?


 けど、今はまず、この戦闘を終わらせることの方が先だな。


 俺は予定通り、迫ってくるパワードスーツ達に向けて右手を構える。

 低レベルなイクスペラー達だろうからMP消費はそんなになくていいだろう。


「業火にのまれろ、『炎竜波』」


 炎がパワードスーツ達を飲み込む。五人いるうちの四人を巻き込んだ。

 きっと行動不能で倒れてる……。

 げ。オーバーキルだ。


 残った一人が仲間の亡骸に縋り付いて泣いている。


 てっきり異能者だと思ってたが、能力としては一般人だったか。


「そこまでやる? 黒崎君、殺人者だよ」


 ラファエルが非難めいた目で見てくる。


「……襲ってきそうになったから機先を制しただけだ。おまえも聞いてただろうが警告はしたぞ」


 計算違いだったことは言わないでおく。


「うわ、気にしてないし」


 敵の強さを見誤って奪わなくていい命を奪ったことに関する罪悪感は少しあるが、敵には容赦するなって教育されてるし、……今更だ。俺はとっくに殺人者だしな。


 ……亜里沙にどう思われたのかは、ちょっと気になるけど。

 とはいえ、これで引かれたらそれまでだな、って冷めた思いもある。


 ええぃ、何もかもこの戦いが終わってからだっ。


“仲間の仇だ!”


 パワードスーツの残党が俺にライフルを撃ってくるが、効かないよ。


“悪いな。命を狙ってくるヤツに情けなどかけるなと教育されてるんでね”


 男に走り寄って、腹に一撃。体をくの字に曲げた相手の首にも一撃。倒れた男は動けなくなってる。


 ヘンリーと亜里沙が変異体を行動不能にして、あとはテイマーの女の子だけだ。


 と、黒い長いものが亜里沙にすごいスピードで伸びてくる。

 ……昆虫の、足?

 おいおい、百メートル近くは離れてるぞ? どんだけ射程長いんだよっ。


「きゃあ! 何この攻撃っ あんな遠くからなんて、すごい強いんじゃない? 勝てないよぉ」

「大丈夫だ、エンハウンスより弱いに違いない」


 意気消沈する亜里沙に声をかけて、テイマーに向かって全力飛行だ。

 気を取り直した亜里沙がすぐ後ろに、彼女の後ろから他のメンツもついてくる。


 敵に近づくまでにMPを回復しておく。周りの蜂どもには燃えてもらおう。


 テイマー女子に近づいていくと、ヤツの使役している黒い昆虫が何か判った、判ってしまった。

 黒い悪魔だの、Gだのと呼ばれている、アレだ。


 趣味悪っ!

 ってかそいつで攻撃してくんなし!


 接敵するまでにさらに亜里沙に攻撃が飛んでくる。アレの脚が異様に伸びて亜里沙に向かっていくさまは鳥肌ものだ。


「相手が何だろうと、全力で倒すわっ。勇者の名に恥じないようにっ」


 亜里沙が俺を追い抜いて、テイマーに攻撃を仕掛ける。


「いっけー! 『裂光剣』」


 抜刀し、大上段から振り下ろす亜里沙は凛々しい。

 剣が白い光を……、いや、虹色?


 今まさに攻撃を加えようとしている亜里沙の左目が、虹色に輝いている。

 俺がエンハウンスに殺されかけた時の、亜里沙の目だ。


 剣が、防御の姿勢を取るテイマーの腕を叩いた。

 まばゆい虹色の光が、四散する。

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