幼馴染でもすごい違い

 階段をのぼって行って、亜里沙と別れたところまで戻ってきた。

 亜里沙は、いないな。


 そういえばあれからどれぐらい経ったんだろう。体感としてはあの部屋に入ってから数分だけど。

 外に出ると、亜里沙が心配顔で迎えてくれた。


「章彦くん、遅かったね、大丈夫?」

「待っててくれたんだ……」

「うん、先に月宮さんと富川さんが出てきて、章彦くんは? って聞いたらもうちょっとしたらくるんじゃないかって話だったんだけど、あの場所で待つのは駄目だって言われて外に出てきたの」


 なるほど、あのままあそこにいると機密区画のあれこれが漏れるかもしれないしな。


「それで、スキルのパワーアップはどうなったの?」

「うん、一応失敗じゃないみたいだけれど、効果が出るのはもうちょっと先みたいだ」

「そうなんだ」


 俺もよく判ってないからそこまでしか説明できない。月宮はともかく富川さんももうちょっと説明してくれればいいのに。


「月宮は何も言ってなかった? ダンジョン探索の方も何もなし?」

「うん、今のところは」


 だったら部屋で休ませてもらおう。すごく疲れた。

 招集がかからないなら今日は横になって過ごすか。


 一応メールのチェックだけしておく。

 ……父さんからメールが届いている。

 数日前に頼んでおいたミリーの件だ。


 ちょっとドキドキしながら、熟読する。


 俺を引き取った時に仲の良い女の子がいて、その子の名前がミリーだったということは、父さんは覚えていたそうだ。


 で、それから二年ぐらい後に近所に立ち寄ったから孤児院に挨拶にと出向いたら、孤児院はなくなっていた。調べてみると、俺が引き取られてから一年後ぐらいに、事件に巻き込まれて爆破され、建物も資料なんかも全焼した。

 子供達も多くが犠牲になり、生き残った者達もほとんどが殺されてしまった。


 なんでも、マフィアの抗争に巻き込まれたのだとか。

 ボスの子を孤児院が匿っているという情報が流れて狙われたらしい。


 なるほど、それで生き残った子らも殺されたのか、救援と見せかけて実はマフィアの手の者が混じっていて子供達を攫って殺したのだろう。


 消防や警察が保護した、あるいは遺体を確認した子供の中にミリーという名前の女の子はいなかったそうなので、もしも俺の前に現れたミリーが本当に孤児院にいた子だとするなら、どうにか逃げのびて命を繋いだ――おそらくはストリートチルドレンとして生活してきたのだろうと想像できる。


 マフィアに引き取られた、という可能性はほぼないだろう。もうちょっと年が上なら鉄砲玉としても使えるかもしれないが、まだ三歳とかそこらじゃ、な。


 やはり夏の日の記憶の女の子は、あのミリーで間違いないのだろう。


 父さんのメールにはさらに、この二年近く前からあちこちで事件を起こしている女吸血鬼の容姿が、今回の事件に関わっているミリーと同じらしい、ということも書かれていた。


 つまり、少なくとも二年前にはエンハウンスの下僕になっていたということか。


 エンハウンスが助けてくださった、と言っていたな。

 路地裏で生活していたのがどうにもならなくなったところに都合よくエンハウンスがやってきて言いくるめて下僕にしたってことかも。


 そう考えるともういなくなったエンハウンスに改めて怒りがわく。


 もうヤツはいないんだから、どうにかミリーを説得できないものか。


 なんて考えてたら、月宮からパーティに招集がかかった。


 月宮の部屋に到着する前に、リンメイとラファエルに合流した。


「あ、くろちゃき、ラファエルさんったらヒドいアルよ。リンメイがせっかくお茶を淹れて持って行ったのに全然飲んでくれなかったネ」

「なんかあからさまに怪しいというかそんな雰囲気だったから」


 苦笑しているラファエルに、思わずうなずいた。

 どうせ惚れ薬とか仕込んだんだろう。


「で、カノジョはどうした?」

静乃しずのはカノジョじゃなくて幼馴染なんだよ」


 ラファエルがイギリスにいた頃に留学して来ていて知り合ったんだとか。で、今度は逆にラファエルが日本に来て交流が続いていたってことらしい。


「僕の身の回りの世話をする、って、僕の部屋に泊まることになったよ」

「おいおい、同棲かよ」

「同居だよ」

「おまえにその気はない、ってこと?」

「よく判らないけど、多分」


 曖昧だな。


 そんなやりとりをしながら月宮の部屋の前で亜里沙やヘンリーとも合流した。

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