世界意思と両儀

 大昔の地球で人間は細々と生活していた。

 だがそこへ、異世界からのゲートがつながり、彼らでは到底太刀打ちできない魔物が攻め込んできた。


 古代の人の中にも異能者はいたようで、敵の軍勢をわずかながらに食い止めることができた。けれど劣勢は明らかだ。このままだと人類は滅んでしまう。それどころか、地球の生態系が完全に破壊されてしまう。


 どうすればいいのか、人々は考えた。

 異能者の中でもより強力な技を使う者は、異世界からの魔物は、やはり異世界の守護者に倒してもらえばいいのではないかと考えた。


『異能は異質、世界を壊すもの。異世界の者などさらに脅威でしかない。……しかしやむをえまい』


 声の主も不承不承って感じで賛同した。


 もしかしてこの声は、……世界意思? 世界を守ろうとするという……。


 映像ははっきりしないが、どうやら異世界からの魔物は倒されたようだ。

 だが……。


『そもそもなぜ、異世界のものが攻めてきたのか』

『彼らの狙いは人の有する力、闘気』

『ならばその数を減らせば――』


 待て! それじゃ本末転倒……。


 そこで意識が、あの部屋に戻った。


 ……世界意思は、知的生命体をコントロール下に収めようと働き始めたのか。


 目が、頭が、痛い。

 必死に痛みに耐えていると。


「どうだった?」


 この声は、富川さん?


「失敗ではない、といったところかしら。まだはっきりとどうなるかは、こいつ次第ってところね」

「これでうまくいけばいわゆる魔眼の継承者は二人、いや、『封神の虹眼』は複数人いるから、二種類か。一番力を使いこなせるのは美坂さんだろうけれど」

「あの子は駄目よ。『崩壊の赤眼』を使いすぎると体内に封じている疫病神を封じ込められなくなる」

「あぁ、判っているよ」

「魔眼は、もっと昔には七種ほどあったみたいだけれど、見つかりそうにないわね」

「贅沢は言えないよ。せめて『封神の虹眼』と『崩壊の赤眼』が手に入ったならよしとしよう。黒崎君が自分から言い出してくれて助かったよ。意志がないと真の力は得られないからね」


 二人があれこれ話しているけれど、頭が痛すぎて内容が入ってこない。

 意識が、遠のいてきた。


 二人はまだ話しているが、それを聞き取ることもなく、俺は気を失ったようだ。


 気が付いたら、部屋には誰もいない。


 頭痛はもうなくなっている。

 体を起こしてチェックしてみるが特に外傷もないし、痛みもないな。


 部屋の外に出て、服を着る。

 防具を装備して、武器を異次元収納ボックスに入れる。

 開眼の短剣は、ちゃんと返されていた。


 富川さんと月宮、何を話していたっけ……。

 とりあえずパワーアップは失敗じゃない、って感じみたいだな。


 あとはよく思い出せない。


 無意識で開眼の短剣を引き抜いていた。


『破壊の中に再生がある。守るためには、壊さねばならないこともある』


 頭の中にあの声が響いた。


 そういえば、扉や床の模様は「陽と陰」「光と闇」を表しているって言ってたっけ。相対する二つってことだな。両儀、だったか。

 だったら、破壊と再生も、そうなのか。


 世界意思が知的生命体をコントロールしようとしているのも、破壊の中の再生だと言いたいのか。


 けれど、今を生きる俺らには、あらがう権利はあるはずだ。

 世界意思が破壊の中から再生を得ようとするなら、俺らは違う方法で世界を守ればいい。今の人達を大量に殺さなくても、世界が壊れない方法を。


 ……そこまで行くと俺らだけの手には負えない。まずは今のこの世界を守ることを考えよう。

 それだって結構大きくて大変なことだけれどな。

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