熱烈不歓迎
月宮の部屋に入ると、美坂さんもいる。
『今日はわたしもついていっていいですか』
スケッチブックに小さ目の美麗な文字が並んでいる。……でもちょっと興奮しているような感じにもとれるな。
「えぇっと、いいのか?」
月宮を見る。
とっても面白くなさそうな顔で「今回は美坂を止めるわけにはいかないから」とだけ言う。次の言葉を待ったが出てこない。おいおい、理由は?
「なにかやばいことでも?」
美坂さんの方に話を振る。
『
掛ってのは占いのようなものだっけ。
確か美坂さんのそれって、すごくよく当たるって話だよな。しかも命にかかわることではほぼハズレなし。ハズレも悪いことが起こると知って回避したもの、らしいから、実質百発百中ってことだ。
「命に係わること?」
問うと、美坂さんはこくんとうなずく。
「具体的には?」
今度はゆるゆるとかぶりを振った。
「内容は判らないけれど命大事に、ってことよね」
亜里沙がぼそり。
彼女を見て、はっとしたように美坂さんがスケッチブックにペンを走らせる。
『わたしがいいと言うまで封神の虹眼は使わないでください』
「え? どうして?」
『それまでに使ってしまうと、生き残れないと思われます』
『封神の虹眼』は、その時に体内にある闘気のうちで自力で操れる分をすべて技につぎ込むんだっけな。
一定量以上の闘気を叩きこまないといけないから、基本的に一エリアで一度だけの技、という感じになる。魔石をめちゃくちゃ使って闘気を回復させたら使えるんだろうけど、闘気回復の魔石がそうそう大量にあるわけじゃないからな。
今回のエリアボスには『封神の虹眼』が必須、ということだな。大技がないと生き残れないって、結構ヤバいな。
さらに気を付けないといけないのは、技を放つための闘気を温存しておかないといけないってところだ。闘気はいざという時の回避や、ここぞという時の攻撃にも使うことができるから、ピンチに陥るとどうしてもたくさん使ってしまう。
魔石で回復できるとはいえ、亜里沙はエリアボスまで闘気温存でいかないといけないってことだ。
「わ、わかりましたっ」
亜里沙が緊張した声で応えた。
「それじゃ、さっさと行ってきて。美坂、……気をつけて行ってきなさい」
俺らの傲慢な態度と、美坂さんへの柔らかい物腰と、……態度違いすぎだろう。
ダンジョンの新エリアまでやってきた。
調べるまでもなく視認できる通路の先に、いきなり砲台が設置されてる。
「熱烈歓迎だな」
「黒崎君、さっさと『死の舞踏』で壊してきてよ」
ラファエルが、なんかエラソーに言ってる。
「おまえにそんなふうに言われる筋合いはねぇよ」
言いながら、砲台を鑑定する。
五台の砲台のうち、一つはエリア攻撃ができる拡散型砲台だ。あとは一体を狙うタイプだな。
言われるまでもなく走り寄って『死の舞踏』と行きたいところだけど。
砲台までの十メートルほどの間に、何かありそう。
――『罠発見』!
スキルを発動させると、見えた。
床一面から
新しく覚えたスキル『罠破壊』を発動させて、罠の中心に向けて銃を撃つ。
うまく破壊できたみたいだ。
解除と違って罠に近づかなくても無効化できるのが便利なスキルだな。
エリアに入って見えるところに砲台を設置し、早く片付けないと撃たれると焦らせてダメージトラップで攻撃する。
なかなか凶悪なコンボじゃないか。いよいよ拒まれてるって感じだな。
俺の憶測を肯定するかのように、ラファエルの弱めの魔法一発で砲台はすべて壊れた。砲台は「誘い」で、撃てればラッキー、ぐらいだったんだろう。
改めて、ダンジョンをしっかりと見る。
最初の方は自然の洞穴を利用した造り、みたいな雰囲気で、前回までがなんとなく機械っぽいような感じだったが、このエリアはまた洞穴っぽい。ただ、なんというか、一言で言い表すなら「異世界のダンジョン」っぽいのだ。
なんというか、地球にはないような石の壁、って感じなのだ。濃い紫や緑、青の混ざりあった光沢のある岩なんかがそう思わせるんだろうな。
「なんかちょっと、おどろおどろしいっていうか……」
亜里沙がつぶやくのにみんなもうなずいてる。
異世界から呼び寄せた強力な精霊、ってのがいた世界の鉱物なのかもしれないな……。
そんなことを考えながら、砲台があったところまで足をすすめた。
通路は左に折れ、すぐに左右に分かれている。
さて、どちらから行くかな。
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