シリーズが揃ってパワーアップ

「左がいいアル」

「根拠は?」

「ダンジョンの壁に左手をつけて歩くといいってネットで言ってたアル」


 あはは。迷路の「左手の法則」か。出口を目指しているわけじゃないけど、まぁいいや、左で行こうか。


 いつも通り、俺が先行して先へ進む。

 通路に罠はない。突き当りを右に折れると扉があった。罠を破壊して、みんなを呼ぶ。


「戦闘かな」

「罠のある扉の奥は戦闘がない確率の方が高いけど、さてどうかな」


 扉を開ける。部屋に敵は……、いない。

 みんながそれぞれほっと息をつく。


「あ、宝箱アル。……くろちゃき、調べるネ」


 リンメイの言うように部屋の隅に宝箱っぽいのが見える。ここから二十メートルぐらい先か。

 パーティを組んだ頃のリンメイなら俺が何か言う前に飛び出していって罠にかかっていただろうが、さすがに何度もダンジョンにもぐってあれこれ経験するとそれなりに慎重になってる。さっきも一歩先に罠があったばかりだしな。


 うん、罠あったよ。ガストラップだ。発動すると扉が閉まってガスが部屋に充満するってヤツだな。HPをごりごり削られるタイプだ。

 無事破壊して、宝箱までの道筋も確保した。


「これだけ厳重にしているんだから、いいものじゃないと割に合わないよね」


 確かに。


 開けてみると、……籠手? このデザインは……。


「ハリウォンの盾、ですかね」


 鑑定してみるとヘンリーの言う通り、ハリウォンシリーズの最後の一つ、ハリウォンの盾だ。


「三つそろえたことでパワーアップしました」


 おぉ、そりゃなによりだな。


 この部屋は行き止まりだ。戻って新たな通路に向かう。

 また左右に分かれているから左に向かう。


 扉の先には、敵が待ち構えていた。

 両手が剣になっている二足歩行の魔物が四体。黒が基調で、腕や胴のところどころに薄黄色の模様がある。

 あと一匹は剣と盾で武装した兵士みたいな感じだ。赤色の目みたいなものが顔にあって、全体的には水色だ。


 魔物の色合いも、あんまり地球側では見ない感じだな。地球の動物たちが変異した魔物じゃなくて、やっぱり異世界の魔物そのものなのかな。


 美坂さんを一歩下がらせて、俺がデータ収集器を向け、亜里沙がE-フォンで敵の検索をした。


「両手が剣のやつ名前は、アディン。敵一人に対して多くても二体までしか向かってこない、だって。あと、上から叩きつけるようにすごい力で攻撃してくるから、当たったら結構こけちゃうかも。注意して、って」


 機械兵は集中攻撃を仕掛けてきたけれど、逆にこいつらは散開するタイプか。範囲攻撃を避けるためだろうか。


 もう一体のデータはなかったみたいだ。


 なら、実戦でデータを集めるまでだ。アディンは亜里沙とヘンリーに任せて、俺は戦士の方に走った。短剣を抜いて、突く。

 キィン、と甲高い音がして、刃がはじかれた。


「この感触、朝川タニシっぽいな」

「それじゃそいつはタニシ戦士アル」


 なんか違う。思わず笑いが漏れた。


 戦士の反撃。めちゃ素早いっ。俺らの使ってるスキル『切り返し』を二度同時に発動していると思うほどの剣の振りだ。

 けど攻撃自体はかわせないものでもない。


「ヘンリー、こいつへの攻撃、任せていいか?」

「了解しました」


 俺はアディンの群れへと向かう。『死の舞踏』で切り込んだ。

 ラファエルの範囲魔法もあって、一気に戦闘が有利になる。


 剣戟が響いている方を見ると、戦士とヘンリーが斬り合いをしている。お互いに相手の剣を紙一重でかわし、あるいは弾いて反撃している。すごい見ごたえのある戦いだ。


 いや、見とれている場合じゃないな。

 アディンが散らばってしまう前に、『炎竜波』の準備だ。


 何せ亜里沙が省エネモードで戦ってるからな。その分、俺が頑張らないと。


 俺が放った炎の竜に巻かれ、アディン達が悲鳴をあげる。

 ここまでダメージを与えると、リンメイの補助をもらった亜里沙の通常攻撃でとどめを刺せるはず。


 ヘンリーの方を改めて見ると、ちょうど彼の大剣が戦士を斬り伏せたところだった。


 残ったアディン達を確実に一体ずつ倒していく。


 新しいエリアの新しい敵だったが、比較的楽に勝ててよかった。


 部屋の奥のMP回復のパネルで補充して、先に向かう。

 このまま順調に踏破できればいいけれど。

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