こんな時だが、彼女がかわいすぎる

 サリー達の隠れ家は、一言で言ってめちゃくちゃだ。

 激しく戦った跡がありありと判る。


「サリーちゃん、どこー?」


 亜里沙が声をかけながら探し始めたので俺も手伝う。


 サリー達は隠れ家の裏手に倒れていた。意識はない。もしかすると最後の最後まで抵抗していたのかもしれないな。


「優しき治癒のほむらよ、彼の者の傷をいやし活力を取り戻させろ、『癒しの炎』」


 魔法はあんまり得意じゃないけれど、重傷も癒せるちょっと強力な治癒魔法を会得しておいてよかった。長く集中して唱えないといけないし、MPの消費も大きいけれど、いざという時のためにと備えておいたのが幸いしたな。


 俺の魔法で大きな傷が癒えると、亜里沙も軽症治癒の魔法を唱えた。


 傷はあらかた治ったが、サリー達は意識を失ったままだ。よっぽどダメージがきつかったんだな。あの真祖が相手だ、当然か。


「さすがにバイクじゃ運べないし救急車を呼ぶのもなぁ」


 考えて、そうだ、適任者がいるじゃないかと思いついた。

 ジョージに電話を入れて、怪我人を三人を乗せられる車で迎えに来てくれと頼んだ。


 彼が来るまでに隠れ家を捜索する。

 二階建てだがさほど大きくない家で、戦闘の跡は一階に集中している。寝室だったらしいところが特にひどくて、そこから家の裏手に血の跡が続いている。


 最初の見立て通り、部屋で戦闘になってほぼ勝敗は決したが、サリー達は意識のある間、真祖を止めようとしてくれていたんだろう。


 ウィリスはどこにもいなかった。遺体もない。ここで殺すこともできただろうが万が一にでも邪魔が入らないように連れ去ったか。


 捜索を終えて亜里沙と話をしているとジョージがやってきた。


「よぉ、怪我人はどこだぁ?」


 夜中なのにジョージは気前よく迎えに来てくれた。怪我人のために揺れの少ない高級車を借りてきてくれたらしい。


「ありがとうジョージさーん」


 亜里沙が抱きつきそうな勢いでジョージの手をぎゅっと握っている。

 おいジョージ、なに照れてんだよ。


「妬くな章彦。器がちっちゃいぞ」

「うるさいな。せっかくあんたに対する評価が上がったのに落とさせないでくれ」


 そんなやりとりをしつつサリー達を車に乗せて、本部の医務室に運び込んだ。


「治癒魔法をかけてくれたから、あとは体力が回復すれば意識を取り戻すと思いますよ」


 サリー達を診察してくれた医者が、ちょっと安心な見解を口にした。


 そうこうしていると、診察室に月宮がやってきた。

 うわ、すっげぇ不機嫌そう。夜中に起こされたからか。


「知り合いが怪我をしたって?」


 言いながら、ベッドに眠るサリー達を見て、怖い笑みを浮かべた。


「へぇ、またここに来たのね」


 しまった。サリー達に今度会ったら殺すとか言ってたな。こいつのことだから本当にやるだろう。


「いやいや、彼女らが自分から来たんじゃなくて、俺らが運び込んだんだから」


 せっかく助けたのを目の前で殺されたら、たまったもんじゃない。


「ここに来た手段は関係ないわ。約束は約束よ」

「緊急事態なんだからしょうがないでしょ! わたし達が連れてきたんだから、変なことしたら承知しないわ!」


 亜里沙がキレた。けど今回は全面的に亜里沙に賛成だな。


「あぁ、もう、うるさいわね。で、なにがあったの? 事情を話しなさい。ろくでもない事情だったら即刻叩きだすわ」


 亜里沙が勢いでウィリスのことを口走ったら困る。俺がなんとか取り繕って、と思ってたら。


「襲撃を受けているって連絡があったから助けに行ったのよ。現場に着いたら彼女達は倒れていたの。怪我人がいるから助けた。それだけのことよ」


 お、隠すべきところは隠して嘘もついてない。ベストな回答だと思う。亜里沙が冷静になれたようでよかった。

 俺は彼女に同意するように、うんうんとうなずいた。


「まぁいいわ。封印の儀式が開始されるまでに別の場所に移しなさい」


 月宮はまだ何か言いたそうな顔でもあったが、きっと面倒が勝ったんだろう。引き揚げてくれた。


「やれやれよかった。亜里沙、いい返事だったな」


 頭を撫でると亜里沙はふにゃりと表情を崩す。


「あきちゃんがね、いつも冷静に受け答えしているのを聞いてて、わたしもちゃんとそういうのができるようにならないとなーって思ってたんだ。その、カノジョとして、あきちゃんに釣り合う女にならないと」


 亜里沙が照れながら笑っている。

 おいおい、なんだよかわいいなっ!

 思わず抱きしめそうになったけど、サリーが呻き声をあげたのでそちらを見る。


 サリーが、うっすらと目を開けた。


「あ、目が覚めたか」


 サリーは事態が理解できていないみたいで、しばらくぼーっと天井を見つめて「……あれ? ここは?」とつぶやいた。


「大丈夫か?」

「あ……、どうしてあなたが……」

「ここは医務室よ。ごめんね、間に合わなくて」


 亜里沙が詫びると、サリーは亜里沙を見て、はっと息をのんだ。視線がかなりしっかりとしてきた。意識が安定したのかな。


「電話、つながってたんだ。ありがとう、助けてくれて。それで、あれからどうなったの?」

「逃げられた後だったよ」


 亜里沙の答えにサリーが済まなさそうな顔になった。


「ごめんね。迎えに来るまでちゃんと見てるって約束したのに」


 あぁ、これ以上の詳しい話は医者に聞かれたくないな。


「先生、ちょっと席を外してくださいませんか」


 込み入った話をすると察してくれたんだろう、医師は「あまり長話はいけませんよ」と言い残して隣の部屋に移動してくれた。

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