File11 真祖襲来

こいつリア充だったのか

 朝川周辺の変異生物騒動の次の日。

 てっきり、すぐに「ダンジョンに行きなさい」と命令されると思っていたが、午前中に呼び出しはなかった。


 時間がある間にラファエルは父親から預かったという魔導書の解析をしていたみたいだ。


「いろいろと判ってきたよ。この魔導書を使ったら転移ゲートの作成とかできるようになるみたいだ。ゲートとゲートを結んで行きたい所に行けるようにもできるし、ゲートを閉じたりとかも」


 そりゃすごいな。

 そのかわり膨大な力を必要とするらしいけれど。


「膨大な力って、やっぱりMPとか闘気とかかな」

「そんだけすごい魔法になると、HPも取られちゃいそうアルね」

「あとは生贄なんかも定番だな」

「ヤギの頭とか? 大蛇の生き血とか? 魔女の首とか?」

「ならば魔女狩りの手配をせねばなりませんね」


 そんな冗談を言ってると、美坂さんが大きなコンテナを運んできた。


『月宮さんに頼まれて、例の、です』


 スケッチブックに書かれた小さな文字で、あぁ、サリーの友人だなと察した。


 早速サリーを連れてきて、ご対面だ。

 二人は抱き合って感動の再会を果たしている。


「改めて、ありがとうございました!」

「この御恩は一生忘れません!」

「大したことしてないよ」


 ……まだ、な。

 月宮との約束を思い出してちょっと怖くなったが顔には出さないでおく。


「もう何もないだろうけど、連絡先でも交換しておいたら」

「あ、それはもうサリーちゃんと済ませてるよ」


 さすがだな亜里沙。もうすっかり仲良くなってる。

 サリー達を見送って、いったん解散となった。


「あ、いたいたラファエルさん」


 部屋に戻ろうとする俺ら――ラファエルに声をかけてくる人がいた。


「あなたに会いたいという人が来てますよ」


 声をかけてきた男の人は本部外の人が来たら応対する部署の人みたいだ。彼がいうには、訪問者はラファエルがここにいると聞いて心配でやってきたのだとか。俺らと同年代の女性らしい。


「作戦に携わる人の関係者を装って情報を引き出そうとする動きもないわけじゃないですから、あなたの知り合いかどうか確かめてほしいです」


 確認は大事だな。

 うなずいて応接室に行くラファエルの後から、俺もこっそりついていった。

 俺の後ろに亜里沙とリンメイもくっついてくる。


 ラファエルが応接室に入って行ったら、俺らはそっと窓から中を覗き見る。


静乃しずの、どうして君がここに……」


 ラファエルは驚いているけれど、相手が知り合いなのは間違いなさそうな感じだな。


「もう! 心配したんだから! 急に連絡が取れなくなって」


 静乃と呼ばれた女性はラファエルを見ると、それまでのおとなしそうな雰囲気を崩してラファエルに食って掛かっている。


「えっと、ごめん。いろんなことがあって……」


 ラファエルはタジタジだな。尻に敷かれてるのか?


「あなた個人の連絡先にも、家にもつながらないから行ってみたら、家、焼けちゃってるじゃない!」


 そういえば吸血鬼が襲ってきた時に火事になったって言ってたな。


「うん……。ちょっとね。でもどうして静乃は僕がここにいるって判ったの? 誰にも何も言わずに来たのに」

「一週間前に、あなたのお父さんがうちに訪ねてきたのよ」


 え? 親父さん、吸血鬼に襲われて生死不明じゃなかったか? ラファエルが連絡入れてもつながらなかったんじゃなかったっけ?


「お父さん生きていてよかったアル」


 そうなんだろうけど、……なんか不自然だな。


「父さんが?」


 ラファエルもすごく驚いてるな。


「えぇ。『今、忙しいからラファエルと直接連絡は取れないけど、とにかく彼は生きてるから』ってここのことを教えてくれたの」


 なんで親父さんはここのことを知ってるんだ?


 ……考えられるのは大きく分けて二つか。


 一つは、襲撃から辛くも生き延びて極秘裏にこの作戦に協力している。

 魔導書を持って富川さんを尋ねるようにとラファエルを逃がしたらしいしな。作戦のことを親父さんが知っているのはうなずける。


 一つは、敵に捕まって操られている。

 こっちの方が確率が高そうだというのが俺の直感だが。まだ根拠はないな。

 確かめるには、この静乃という女性の動向を探るしかない、か。


 ――けど。


「父さんはどこにいるって?」

「それは聞いてないわ。ねぇ、どうして何も教えてくれなかったの? すごく、心配したんだから……」


 静乃さんが寂しそうな顔をして、ラファエルに近寄って、なんかいい雰囲気になってきた。

 ラファエルもまんざらじゃないみたいだな。


 こういうのを覗き見るのは、ちょっと気が引けるな。

 リンメイはわくわくしてるけれど。


 よし、ここはおまえに任せた。


「俺はもう行くから。なんか怪しいことがあったら後で教えてくれ」


 小声でリンメイに告げると、指でOKサインを返してきた。

 うなずいて、そっと離れると亜里沙もついてくる。


「あいつカノジョなんかいやがった、ナマイキな」


 冗談めかして言うと、亜里沙もうなずいて笑った。


 俺も、この作戦が終わったら……、ってこれじゃ死亡フラグだっ。

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