友と呼べる人
中谷副社長に挨拶と、ダンジョン探索の一件が終わったら会社を離れる旨を告げた。
「当初は二十五歳までこちらでお世話になる予定でしたが、父の会社に移ることにしました」
「そういうことなら仕方ないね。黒崎さんにはお世話になっているし、きっとこれからも頼みごとをしないといけないだろうから」
父さんの会社は表向き人材派遣会社だ。イクスペラーの派遣や、彼らが持ち帰った魔物の素材などの調達もしている。
ナカタニ製薬がイクスペラー用のポーションを売り出して成功しているのは、父さんの会社の力添えがあってのことと言ってもいいぐらいだ。
俺が退社するのは痛手だろうが無理に引き留めて不興を買うのはもっとまずいと副社長は判断したのだろう。
ということで、あっさりと送り出されることになった。
ダンジョン探索のプロジェクトが終わるまで籍は置いておくし、ダンジョンから持ち帰れるものがあれば入荷するけれど。
事務室に戻って立浪さんに引き継ぎをする。
俺だけが知っていることなんてそんなにないし、資料を渡して終わりだと思っていたが、ポーションの生成などをぜひ実際に見せてほしいと頼まれたから三日間でできるだけ実践することにした。
夜になって帰ろうとしたら、立浪さんに飲みに行かないかと誘われた。
「こんなことになるなら、もっと積極的に声をかけたりするんだったよ」
居酒屋で、立浪さんがビールを片手に言う。
俺はもっと近寄りがたいヤツと思っていたし、しかもあと数年したら会社を離れていくんだし、適度に距離をあけて接していたんだそうだ。
あまり俺に肩入れして研究所での肩身が狭くなったらって心配もしていた、とも言う。
そりゃそうだよな。立浪さんは俺が離れてもずっと残るんだろうしその時のことを考えるのは当然だ。
実際、こっちに嫌がらせとかイヤミとか言ってくる連中にはキツい態度をとっていたから板挟みみたいにしてしまって申し訳ないと思う。
二人で、お互い様だと笑って、ジョッキをあわせた。
それから残りの二日も、立浪さんと実験室であれこれと意見をかわし、夜は飲みに行った。
今まで積極的に人付き合いをしてこなかったけれど、こういう交流もいいもんだな。
楽しいと、心から思えた三日間だった。
三日目の夜、作戦本部に戻ってきて、なんとなく四人で集まってどう過ごしていたのかという話をした。
聖の三日間は、本人も言っていた通り学校に通っていたそうだ。
一番の友人は
母親の仕事の手伝いで時々学校を休む聖は勉強も遅れがちだが、江崎さんがサポートしてくれているみたいだ。
そういう友達がいるのは心強いな。
「みほちゃん、昨日のドラマ見た?」
「見た見た? キュンだよねー」
そんな話で盛り上がって楽しかったそうだ。
聖、ドラマとか見るんだ。ちょっと意外だったな。
リンメイもやっぱり学校に行っていて、彼女の友達は
リンメイも勉強は今一つらしいが、残念なことにアカリちゃんはあまり戦力にはならないそうだ。
しかし彼女をはじめとして、クラスメートとは仲良くやっているらしい。
人当りいいもんな、リンメイは。よすぎるきらいはあるが。
みんな友達いるんだよな。
俺はひたすら勉強してて、勉強仲間みたいなのは一応いた、ぐらいだ。学年飛ばしてたし授業についていくのもなかなかつらかったし。
無理しすぎたのかなあ、もっと普通のペースでやってもよかったのかもしれない。
けど早く学校を卒業して、早く父さんの役に立たなきゃいけないって思ってたから。
っと、リンメイの話がさらに進んでるぞ。
ここで俺の父さんに会ったって話したら、今度は連れてきてと母親に頼まれたんだと。
「無理だろ。俺でもめったに会えないのに」
即突っ込むとやっぱり黒崎親子は冷たいアルと嘆かれてしまったが、知らん。
ヘンリーは元々教会からの依頼でこっちに来てるので留守の間の手続きなんかはすんなりと終わったそうだ。
あとはシスターズ(シスター達)の教育をしていたそうだが。
「教会が留守の間に何事かがあった時には、しっかりと防御を固めるように指導してきましたよ」
そっちの指導か。
防御って、何と戦うつもりなんだよ。
十三人いるシスターの中で頼りになるのはメアリーとシンディの二人だそうだ。
彼女達はヘンリーが教会に来た時からいるシスターで、留守を任せても大丈夫なのだとか。
「しかし、どうして十三人もいるんだ? 話に聞くところそんなに大きな教会でもないだろうに」
「私の趣味です」
あ、そ。
そんなこんなで夜は更け、いよいよ明日、ダンジョン探索に赴くことになった。
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