やっぱり逆らっちゃダメなやつだ

 アメリカ軍の本拠地に向かう道中で、俺達が本拠地に同行してほしい理由を青井さんが説明してくれた。


 この襲撃はアメリカ軍が「部下が勝手に暴走している」としているらしい。上層部は穏便に済まそうとしているのだが血気盛んな部下が勝手にやっているのだ、遺憾である。ってことだな。実際は「作戦が失敗して遺憾である」なんだろうが。


 なのでこちらも同じ手を使うというのだ。


「部下を襲撃され大打撃を被った返礼として、月宮さんが部下を引き連れて殴りこんだ、という設定だね」

「俺達は大打撃を被った当事者として一緒にいく、と」


 青井さんは満足げな声で肯定の相槌をうった。


 本拠地の近くにはたくさんのイクスペラーが集まっていた。筆頭にいるのが月宮だ。

 この人ひとりで蹴散らかせるんだろうけど、ザコ掃討に呼ばれたんだろうと思われるリカルドさんとレッシュもいたりする。二人って月宮の部下設定? かわいそうだと思うのは俺だけか?


「来たわね」月宮が俺らのところに来て言う。「とりあえずここで待ってなさい。中へ踏み込むとき には一緒について来てもらうから準備しておくように」


 いつものつまらなさそうな不機嫌顔じゃなてく、やる気のある顔、みたいな感じになってる。事務的な仕事より実戦に出る方が楽しいのかもしれない。


 彼女と、リカルドさん達が本部に突撃をかけていく。主に倒してるのはレッシュだけど。リカルドさんの魔法や青井さんの特殊スキルもすごい。

 能力持ってない奴らなんてあっという間に行動不能だ。異能者でもレベルの差が歴然としている。


 取りこぼした連中は、彼らが監督しているであろうパーティらが行動不能にしていっている。

 なんというか、本当に言葉通りの掃討作戦だ。


「取り残されている感じがしますねぇ」


 ヘンリーが呑気な声で言う。


「おとなしくしておくしかないよね。わたし闘気空っぽだし」


 亜里沙が肩をすくめた。彼女のスキルは闘気頼りなのが多いから、「闘気のない勇者なんてただの役立たずよ」と自虐しているのに笑うしかない。


 そう時間をかけずに本部の周りの敵は一掃された。

 月宮に呼び寄せられて俺らも彼女の近くで待機だ。


「じゃ、これから中に入るから、あんた達はわたしのそばにいればいい」


 余計なことはするなってことだな。


 月宮が魔導書らしきものを取り出す。ラファエルが持ってきてたゲートの封印のやつも結構すごそうな装丁に見えたけれど、彼女の魔導書もいかにも古くから使い込まれたって感じだな。


 何語かも聞き取れない言葉で月宮が歌い上げるように呪文を唱えている。


 なんか巨大な街? 塔? が出てきたぞっ。

 すると、今まで襲撃に対抗するために統率の取れた行動をしていた軍人達が、パニック状態になった。


「あれが月宮さんの持つ魔導書の能力『バベル』だ」


 いつの間にか近くに来ていた青井さんが説明してくれる。

 今、基地内のコミュニケーションがまったく取れていない状態になっているらしい。言葉も意思も通じないんだとか。

 聖書の物語にちなんだ能力ってことか。辺り一帯に影響力を持つなんてすごすぎるだろう。


 パニックに陥っている連中を制圧するのは、高レベル異能者にとってまさに赤子の手をひねるようなものだった。そばで見ていてアメリカ軍が気の毒にさえ思えたぐらいだ。


“あんた達が『上の命令に背いて』余計なことをしたからこうなったのよ。本国に帰ったら上司にそう伝えるのね”


 嫌味たっぷりの月宮に、軍人たちはうなだれるしかなかった。




 本部に戻ってきた。ほっとする。もうここが今の俺らの居場所みたいになってるな。


「外部から今回の襲撃のことを聞かれたら、わたしに強制されたと言えばいいから」


 月宮は、ちょっとだけすっきりしたといった顔だ。ストレス発散できてよかったな。


「ダンジョン探索だけれど、……今日はやめておいた方がいいわね」


 俺らの状態を見て取って月宮は「まぁ仕方ないわね」とつぶやいた。


 まだ昼過ぎだが、今日は休息に専念ということになった。

 すぐに部屋に戻ってもよかったが、亜里沙が共有の休憩ルームに行くというので俺もついていった。


 パーティで談笑しながら休憩するための部屋で、キッチンもついてたりする。というか元々一軒家で家主がいないのを使わせてもらってるんだけど。


 あまり考える余裕がなかったから今ふと思い出したけど、結局この村の人や遠足の子供達は、戻ってきてないんだよな……。やっぱり、あの声に導かれて入って行って、魔物に変異しちゃったんだろうな。俺らが倒してきた魔物の中にも、もしかしたら……。


 いや、考えるの、やめておこう。


「お茶でも飲むか?」

「うん、ありがとう」


 二人分の飲み物を用意して、ソファに座って。

 ……何を話せばいいんだろう。

 まぁ無理に話すこともないか。のんびりしているこんな時間も心地いい――。


「あー、二人でこんなところにしけこんでるアルっ」


 リンメイが来て、俺らの間にぎゅぎゅぎゅっと体を割り込ませてきた。

 しけこむとか、JKの使う言葉じゃねぇよ。


「リンメイちゃん、主人にかまってほしいペットみたいね」


 亜里沙のつぶやきに大笑いした。

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