自分の心はごまかせない

 指揮官の腕が振り下ろされる。亜里沙は剣で受け止めようとするが、相手の力の方が強かった。

 斬られるというよりは刃を叩きつけられて亜里沙が悲鳴をあげてくずおれた。


 頭の中が湧きたつように熱くなる。


“てめぇ、ぶっ殺す!”


 思いつく限りの罵りの言葉を吐きながら、ありったけの力でスキルの影響から逃れた。

 迷わず『崩壊の赤眼』を発動して指揮官の急所を狙う。


“ふん、戦いの中で冷静さを欠いたら終わりだ、少年”


 男はやすやすと攻撃を避けて俺の腕を掴んだ。

 あっという間に投げられて背中から地面に叩きつけられる。

 指揮官の男はためらわず刃を俺に向けて振り下ろしてきた。


 その時。


“うっ?”

“なんだ? 体が……”


 目の前の男がピクリとも動かなくなった。


 これは、青井さんの『影縛り』!


 天井近く、むき出しの鉄骨の上で青井さんがてのひらを下に向けてスキルを発動している。

 文字通り相手の影を地面に縫い留めるようにして動きを封じる技だ。一人にかけ続けるのでも大変だろう技を、今はさらに複数人に継続している。


 バイタルメーターで見ると、MPがどんどん減っていってる。急がないと。


 なんとか立ち上がって、構える。

 再び『炎竜波』を放つ。今度はしっかり炎の竜をまだ意識のある全員に巻き付かせた。


「今だ、拘束しよう」


 手分けして、月宮に渡されていた手錠や枷をかけていった。

 この拘束グッズ、魔力が込められているみたいで、人造人間にされた屈強な男達でも引きちぎったりはできない。


 全員を無力化して、ほっとする。


 亜里沙がこっちに来てからヘンリー達もかなりピンチだったみたいで、ヘンリーはもちろんリンメイやラファエルもけがを負っている。


「よくやったね」


 青井さんが労ってくれた。


“ジョージ、なんで手を抜いてた!? まさか貴様、最初から裏切っていたのかっ”


 ジョージの近くの副官が怒鳴っている。


“おれは……、いくら任務とはいえ、十代のガキを殺すなんてできなかっただけだ”


 ふぅん。案外いいヤツだな。傭兵としては不適合だけど。さらに言うと十代は亜里沙とリンメイだけだけど。


 魔法やポーションで傷をいやしながら、さっきの会話を亜里沙とリンメイに聞かせた。


「そんなこと言って同情を買おうとしても無駄アル」


 リンメイがジョージに近づいていった。


「やぁ嬢ちゃん。そんな怖い顔しないでくれよ」

「駄目って言ったアルヨ。クリーニング代、きっちり払うアル!」

「……へっ?」


 うん、そうなるよな。


 ぎゃーぎゃー言い合いしているあいつらは放っておいて、これからどうするかなんだけど。


「月宮さんから連絡が入ってるよ。アメリカ軍の本拠地が見つかったそうだ」


 青井さんのEーフォンにメッセージが入ってるらしい。

 機を見て襲撃をかけるが、俺らパーティもできるなら来てほしい、だそうだ。


「行っても役に立たないどころか足手まといにならないかな」


 俺らみんな、傷は回復させたけれどMPや闘気はあまり残ってないからなぁ。


「来てくれるだけでいいよ。理由は道中で説明する」

「そういうことなら、行ってもいいんじゃないかな」


 亜里沙に、みんながうなずいた。


 ここの連中は本部から複数人で引き取りに来てくれるらしい。

 よくて強制送還だけど、多分そうならないだろうな。


「できればジョージは生かしてやってほしいかな」


 ぼそっとつぶやいたのに青井さんは微笑してうなずいた。


「章彦くん、大丈夫?」

「亜里沙こそ」

「わたしはへーき。章彦くん、無茶ばっかりしちゃ駄目だよ?」


 じっと俺を見つめて小首をかしげる亜里沙に、息を呑む。


 ……もう、否定できないな。

 俺は、亜里沙が好きだ。


「なに見つめあっちゃってるアルかー」


 リンメイが間に割り込んできた。

 亜里沙が苦笑してる。きっと俺も似たような顔なんだろうな。

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