嬉しいがそれは駄目
青井さんの大技が準備できるまで、俺らで傭兵達の相手をすることになる。
どうやって突入するかの作戦を練った。
入口は二つあるので、裏手から俺がこっそりと、正面の大扉跡から他のみんなに堂々と行ってもらうことにした。俺の「炎竜波」を不意打ちで成功させるためだ。
ということで監視カメラの目をかいくぐって裏手に回った。
扉のそばにぴたりと背をつけて、中の物音をうかがう。
少しして、亜里沙達が中に入って行って戦いが始まった。
“ジャパニーズ・イクスペラーを捕らえろ。あとは殺していい”
男の声が聞こえる。
リンメイの戦闘服が巫女服だからあいつが陰陽師だとすぐに判ったみたいだな。
あとは殺していいとか、気安く言ってんじゃねぇよ。
連中の注意が完全にあっちに向いただろうタイミングでそっと中に入る。
よし、敵は全員こっちに背を向けてるな。
パーティメンバーは亜里沙とヘンリーがツートップ。リンメイとラファエルが固まって魔法支援のいつもの布陣だけれど、相手が多いから両側から回り込まれそうになってる。
ならば片側だけでも。
集中する。右手に炎が集まり始める。
そのころになって俺の存在に気づいたヤツが振り返ってくるが、もう遅い。
「業火にのまれろ。『炎竜波』」
人造人間二体と戦闘員三人へ向けて、炎の竜を放つ。
人造人間は回避して、竜に絡みつかれるのは免れた。戦闘員は炎に巻かれ、悲鳴をあげて倒れていく。
「天の怒りを受けよ。『裁きの光』」
ラファエルの範囲魔法が炸裂する。光のシャワーが傭兵達に降り注いだ。
集中時間、短くなってきたな。
バイタルメーターで相手の状態を確認する。
人造人間三人――うち一人はジョージ――はピンピンしてる。
炎竜波と『裁きの光』をダブルで食らったのがHPゼロで倒れてる。下手したら死んでないか? だとしたら人の事非難しておいて、とどめはおまえだぞラファエル。
魔法だけの連中もかなりフラフラだ。
これで四対七か。まだまだ不利だな。
“このガキどもが!”
“うるせぇよ誘拐犯ども。能力持ちといっても一般人を拉致とか、その他は殺していいとか、外道かよ”
見た目が西洋人のヘンリーかラファエル辺りならともかく、俺に言い返されると思わなかったんだろう。殺していい発言の男が睨みつけてくる。一番ガタイがいいし、多分こいつが連中のトップだな。
“口は達者だなニンジャ・ボーイ。今の技も研究させてもらおうか”
指揮官らしい男がこっちにぐんと迫ってきた。
この位置はリンメイ達の補助魔法が届かないから正直言ってまずい。けれど回避に専念しておけばその間に亜里沙達が残りを片付けてくれるだろう。
指揮官がブレードの腕を振るう。速いなっ。辛くも回避する。
できれば反撃したいが隙がない。やっぱり回避に専念がいいか。
亜里沙達はまずダメージを負っている戦闘員を無力化できたみたいだが、ジョージと副官に苦戦している。
けど、ジョージはなんだか攻撃にためらいがあるように思える。
なんでだ?
“よそ見とは余裕だなニンジャ・ボーイ”
指揮官のブレードが肩をかすめる。体勢が崩れた。
まずいっ。
返す刀が直撃して、吹っ飛ばされる。
エンハウンスほどじゃないにしても、なんて攻撃力だよ。
ラッキーなのは、集団戦闘の方に飛ばされたことかな。回復魔法が届くぎりぎりの距離だろう。
「章彦くんっ」
亜里沙がこっちに来ようとするけど――。
「大丈夫だ。そっち、専念しとけ」
片膝立ちになって、まだ動けるとアピールしながら亜里沙を制する。個人的感情として手助けしてくれるのは嬉しいが、目の前の敵から策もなく離れようとしちゃ駄目だ。
指揮官が追撃してくる。開眼の短剣を抜いてブレードをいなしながら立ち上がる。
ヘンリーが目の前の二人を薙ぎ払って亜里沙に目配せした。
亜里沙がポーションを手にこっちにくる。
リンメイの回復魔法で傷も癒えてきた。
これならなんとか――。
“動きを封じる。‘雷の衝撃’”
指揮官のスキルを食らって体がしびれる。
くそっ、このままじゃ無抵抗で攻撃を食らっちまう。
「駄目っ!」
今まさにブレードを振り下ろそうとしている指揮官と俺の間に亜里沙が割って入った。
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