命がけのカーチェイス
魔法の射程外に逃れて少し様子を見たが、魔導書の男が再び顔を出すことはなかった。
俺はまたバイクを減速させてバンに近づく。
再びライフルの男が窓からライフルをこちらに向けてくる。
男の射撃の腕は大したものだと思う。
こっちはバイクの運転中で回避に関わるスキルが使えないということを差し引いても、避けるのがかなり難しい。並の射手の攻撃ならここまでバイクに銃弾は迫らない。
ミラー越しに、射手と目が合った。
にやりと笑われる。
まずい!
闘気も解放して重心を一気に右にかけて対向車線にまで逃げる。車体がかなり傾いたからか、リンメイの悲鳴がインカムから伝わってくる。
そうでもしないと、きっとリンメイかバイクに被弾していただろう。
「あぶねぇ」
思わず一言が漏れる。
『くろちゃきかっこいいアル! リンメイ達のためにありがとうネ。惚れ直したアル』
いや、まだかわし切ってないから。
バンの前に戻って蛇行を繰り返す。
射手がいらだち始めたのが、今までより乱れた弾道で察せられる。
よし、もうすぐ人目が増える大通りだ。さすがにそこに入ってまでやらないだろう。それこそ動画に撮られてSNSにでもあげられたら連中も困るはず。
ほっとしたからか、射手がこちらの運転技術を読んでいたと気づくのが遅れた。
操縦する先に向けて、銃弾が放たれた。
思わず、ひゅっと息を呑む。
闘気をありったけ解放して回避を試みるけど、遅かった。
『ドドじい!』
リンメイの悲鳴のような声と、式神のネコ、ドドメスが強力な防御魔法を唱える声が聞こえた。
同時に、リンメイに着弾したと思われる衝撃が俺の背中に伝わってくる。
「大丈夫かっ!?」
『うん、大丈夫ヨ。ドドじいの防御魔法と身代わりの術で』
式神と術者はHPをある程度共有できるらしい。今回、リンメイが受けるはずのダメージをドドメスが受けたことになっている。
よかったよ、強力な式神がいてくれて。
やがて本部の車が大通りに入って、バンは減速し、反転して去っていく。追跡はあきらめたようだ。
心底安心した。
だが大通りに入ったところで警察に停められた。暴走車があるって通報されてたんだな。
襲われていたのだと事情を説明している途中で、急に話を切り上げられた。
……あ、これは、本部の「上」が動いてくれたなきっと。
本来なら数時間ぐらい事情聴取されても不思議じゃないくらいなのにあっさりと解放された。
「よかったアル。早く本部に帰るネ」
「あぁ。……リンメイ、すまなかった。任せてくれなんていっておきながら怪我させちまって」
「怪我は大丈夫ヨ。くろちゃきよく頑張ってくれたアル。あ、お礼のチュウいるカ?」
「いらねーよ」
「即答ネ」
二人でちょっと笑う。が、リンメイからすぐに笑みが消える。何かあるのかと俺も笑みを引っ込めて彼女を見る。
「けど、撃たれた時、イヤな感じがしたネ。あの、なんてったっけ、ワームのでかいのに触手で刺された時みたいな」
テ・ミュルエの触手かっ。
ということは、まさか。
真琴さん達が意識不明の原因って……。
本部に電話を入れて状況を説明する。
やっぱり警察におとがめなしにするように富川さんが働きかけてくれていたみたいだ。
さらに、今まで襲撃の被害者はみんな、本部に集められているという。
早く戻るように、と言われて電話を切った。
嫌な予感しかしない。
本部に戻ると、慌ただしい。というか、緊張した空気が漂っている感じだ。
俺はリンメイを連れて、地下の研究室へと向かう。
「こんなところがあったのネ。けど、どうしてリンメイを連れてきたカ?」
「後で説明する」
リンメイの手をひいて、リカルドさんのところに行く。
俺が話しかける前に、彼が厳しい顔でつぶやいた。
“これは、まずいな……”
リカルドさんの手には、タブレット。ちらっと画面が見えた感じ、何かのデータっぽい。
「何か、判ったんですか?」
「あぁ、黒崎君。……専門的な話になるので英語で失礼します」
リンメイに断りを入れたリカルドさんがいつもより早口で話し出す。
俺らにとって、残酷な事実を。
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