光の先の闇の中

 声をかけてきたのはジョージだ。


「真祖がいる可能性があるんだろう? おれが食い止めるからおまえらが“ディレク・ケラー”を弱らせてくれ」

「ジョージさん真祖に勝てるカ?」

「いや。おれができるのはせいぜいちょっと足止めするくらいだ。その間にあんたらが邪神を弱らせて脱出って感じだな」


 真祖はスキルや魔法をコピーするが、魔眼の力や俺の『炎竜波』みたいな「誰もが簡単に会得できるわけではない技」はコピーできない。それは体を改造したジョージの技にも言えることなのだ。


「おれの、機械の部分を使った技は真祖には真似できない。コピーされるスキルが少ない方が、足止めには向いているってことだ」


 そういうことならありがたく力を借りよう。


「といっても、真祖は技をコピーしなくても十分強い。気をつけてくれよ」

「判ってるよ。けどそれはお互い様だ。あんたらも邪神を弱らせるなんて大概危険なんだ。おれの心配より自分らの心配をしとけ」


 ジョージに肩をぽんと叩かれて、そうだな、とうなずく。


 人選が決まったということで早速富川さん達が“ディレク・ケラー”の封印核の内部へと通じるゲートを開く準備を始める。

 その間に俺らは、作戦本部の人達から激励と、残っていたポーションを託される。


 世界の命運を担う戦いに行くんだな。

 重荷だが、ここは気分をあげるために、誉れと思おう。

 大切なカノジョと、信頼できる仲間と、世界を救うんだ。


 ……ふふっ、俺には似合わねぇっ。


「あきちゃん、どうして笑ってるの?」

「いや、俺には厨二になり切るのは無理だなぁって」

「あははっ。あきちゃんが突然『俺が世界を救うんだ』とか言い出したらかなりびっくりするよ」

「黒崎はどちらかというと世界を陰から操る者の下働きですよね」

「下働きかよっ」


 まぁ、まちがってないかもだけど。


 ひとしきり笑って、リラックスする。


「準備はいいかな」


 ゲートを組み上げた富川さんが俺らを呼ぶ。


「黒崎くんの『崩壊の赤眼』でダメージを与えたところに聖さんが『封神の虹眼』を決める、というのが一番効果的だと思うよ。タイミングは、戦っている間に定めてくれ」


 俺の技が綺麗に決まる瞬間が最大のチャンスってことだな。

 亜里沙の『封神の虹眼』を加えた一撃はまさに一発勝負の超必殺技だ。タイミングを外せば俺らは負けるだろう。


 亜里沙を見る。

 力強くうなずいた。


「よし、行こう」


 俺らはそろってゲートの上に乗る。

 本部の人達の期待を込めた顔と大声援が、光の向こうへと消えた。


 光が消えると、そこは闇の中だった。見えなくはないが、明るさに慣れていた目には少々見えづらい。

 右手奥にぼんやりと光が見える。きっとあれが奥につながるゲートだ。


「やはり君達か」

 闇の中から、真祖が現れる。

「よもやこの体を取り返そうなどと考えているわけではないでしょうね?」


 そんなことができるわけがない、という嘲りが声に交じっている。


「ウィリスを、殺したからか。もうミリーの魂は返ってこないと言いたいんだな」


 真祖が言いたいのは俺らの実力じゃ勝てない、ってことだろうけど、あえて外して応える。


「驚きましたね。私に勝つつもりですか」

 真祖が鼻で笑う。

「しかしあなたのおっしゃったことは間違いではありません。もうこの娘の魂は完全に私に取り込まれました」


 くそっ、やっぱりか。


「章彦」

「判ってる。頼むよ」


 俺らをおいて、ジョージが一歩前に出る。


「こいつらと因縁があるみたいだけれど、あんたの相手はおれだよ」


 ジョージが右手をブレードに変形させた。


「いくぞっ」


 その間に俺らは“ディレク・ケラー”の膝元へとつながるゲートに走る。


「ジョージさん、リンメイ達が戻るまで粘るアルよっ」

「ありがとな嬢ちゃん。無事に戻ったらチューしてくれよ」

「それは嫌ネ」


 見事な死亡フラグな台詞に、リンメイは即拒否した。

 これでジョージは大丈夫、……だといいんだけど。


 戦闘を始めた彼らをおいて、俺らは奥のゲートへと走った。

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