File06 変異ウィルス

恋愛ゲームだと好感度一段階上昇か

 リンメイと聖が襲撃を受けた日の翌日。

 街中まちなかに異世界のゲートが開いてドラゴンをはじめとするモンスターが出現してしまった事件がようやく片付いたので、できれば早いうちにダンジョン探索を再開したい、と告げられた。


 俺は別に今から行ってもいいんだが、ヘンリーが済まなさそうに挙手をして告げる。


「祝福を授けてもらう手配をしていたハリウォンの大剣が、明日戻ってくるそうです。できればそれを受け取りたいのですが」


 ヘンリーが所属している「教会のつるぎ」で祝福の儀式を受けた武器は、より一層の攻撃力向上が期待されている。


「それじゃ、明日ヘンリーの剣が戻ってきてからすぐにダンジョン探索に行く、というのでどうだろう?」


 提案すると月宮はしぶしぶといった感じでうなずいた。


「ゲート大量出現で内部に呑み込まれるとかで行方不明になった人が十万人ほどいるのよ」


 ……えっ!?


 俺もだが、パーティのみんなが驚きの声をあげたり、息を呑んだりだ。


「それだけの命がエンハウンスの作戦のために集められたと考えるなら、彼の作戦が大きく進んだと見ていい」

「何のために、そんな……」


 聖がつぶやいた。


 大体の察しはつく。

 命をいけにえに、ダンジョンの深部に眠るモノを復活させようっていうんだろう。


 俺の憶測のほぼそのままを月宮が答えた。


「あんた達より先の方に進んでいるパーティがあるからダンジョンの探索については情報が入ってくるけれど、あんた達には勇者候補と『崩壊の赤眼』持ちがいるんだから期待されてるのよ。そのことを忘れないで」


 ダンジョンは他のパーティのルートには入られないんだっけな。つまり俺達がエンハウンスの計画を直接止めようと思ったら俺達自身で深部まで行くしかないんだ。


「判った。しっかりと覚えておく」


 なんとなく重い雰囲気で指令室を出た俺らは今日と明日のことを話し合った。


 今日はフリーになるから各自ダンジョンにもぐる準備をする。明日はみんなでヘンリーの教会に行ってハリウォンの大剣を受け取り本部に戻って、そのままダンジョンへ、ということになった。


 基本的にパーティで行動するが、もしも誰かが別行動をとる時はグループ通話を開いておくことにする。あと、本部内ではともかく外に出る時は単独での行動はダメだな。


 それじゃ解散となって、俺は購買部に向かった。


 何度かのダンジョン探索と今回のエンハウンスとの戦いで感じたのは、空中を自由に移動できる手段が必要だ、ということだ。

 なので着脱しやすいスノーボードの改良版みたいな板に、飛行の魔法を付与してもらう手続きをする。


 物品への魔法の付与は、一時的なものと恒久的なものがあって、俺が頼むのは後者のだ。それなりに金と時間がかかるから今回の探索には持っていけないけれどな。


 どうやら聖達も似たような手段で飛行できるよう準備しているみたいだ。みんな考えることは同じだな。リンメイやラファエルは飛行の魔法を習得するらしい。


「あ、あの……、あ、あ、章彦、くん」


 聖がもじもじと話しかけてきた。が、章彦くん?


「あっ、えっと、名前呼び、嫌だったかな……?」

「全然。けど突然どうした? とは思ったよ」


 聖の顔がかぁっと赤くなる。


「も、もう、初対面じゃないんだし、それにその、大切な仲間だから」


 最後が尻すぼみになっていく。


 おぃ、ちょっと、そんな態度されたらこっちもなんか意識しちまうだろう。嫌じゃないけど。


「それじゃ俺も君を亜里沙と呼んでいいか?」


 元々ファーストネームで呼ぶ文化で生活してる方が長かったし、俺はそっちの方が抵抗ないからな。


 尋ねると、火でも噴きかねないくらいに聖の顔がさらに紅潮した。


「章彦くんのお好きにどうぞっ」


 なんかかわいいなぁ。戦いのときはあんなに勇ましいのに。

 思わずほっこりしてしまった。


「それで、俺に用があるんじゃないのか?」


 ただ名前呼びのためだけに呼び掛けてきたってことはないだろう。


「そうだった。あのね、ちょっと学校に行きたいの」


 江崎がどういう扱いになっているのかが知りたいのだと亜里沙は言う。


「みほちゃんのことがどうなってるのか判ったらすぐ帰るから、いいかな?」

「そういうことなら俺のバイクで行くか?」

「うん、そうしてくれると嬉しいな」


 ということで、亜里沙を後ろに乗せて学校に向かった。

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