崩壊のスキルと、勇者のスキル
「みほちゃんは、あの剣と鎧は、どうにかできないんですか?」
「まずは江崎さんを保護しないといけないのが前提だ」
彼女が装備させられているのは「フェルデス」という魔剣で、持ち主の心をゆっくりと気づかれないように侵食していく。侵食が進むと、本人の潜在能力と魔剣の能力を足した厄介なものになるんだそうだ。
「鎧は、剣の一部なんですね? みほちゃんが剣を構えたら変形して体に張り付くように装備されていったから」
「そう。だから支配を解くには剣も鎧も破壊しないといけないんだ」
「体に密着してるのを破壊なんて、どうするの?」
「俺ならどうにかできるかもしれない」
開眼の短剣を抜いて『崩壊の
あちこちに、赤い点と線が見える。頭痛がしてあの声もするけれど意識して抑え込むことはできそうだ。
「眼の光が強くなってるわね。けれど、まだね」
月宮が俺の目を見て言う。
自分じゃ判らないけど俺の左目はスキル発動中に赤く光っているらしい。その光がもう少し強くなるくらいスキルを使いこなさなければ、鎧だけを剥がし取るのは難しいみたいだ。
「このスキルって美坂さんが世界意思の結界を切ったのと同じ、だよな?」
「そう。あの子のはもっと強いものだけれど、それゆえに何度も使わせるわけにいかないのよ」
美坂さんは難病を患っていて何度も死にかけている。そのたびに潜在スキルの『崩壊の赤眼』がパワーアップしたのはいいが、もはや彼女の命を削るレベルだそうだ。だから彼女は「切り札」なのだ。
「だから江崎に関しては、あんたが何とかしなさい」
「判った。ところでこのスキルを発動すると頭のなかに声がするんだけど」
世界を壊せとガンガン頭の中で騒ぐスキルってのも考えてみたら怖い話だ。
「『崩壊の赤眼』は、名前の通りすべてを崩壊させようというスキルだと聞いている。君の頭の中の声は、君自身の破壊衝動、破壊欲求が形になったものだ。正しくスキルを使えば問題はない」
スキルに目覚めたばかりで制御ができにくかったからだと富川さんは言う。それでも聖を守るという俺自身の意思が声を打ち消し、制御に成功したんだ、と。
「そんな声とか頭痛とかするの? 危なくない?」
「制御できるんなら大丈夫。聖の方は?」
「えっ? わたし?」
「エンハウンスへの一撃の時、新しいスキル使ってただろう」
「あぁ、『
それならよかった。
「聖は勇者の資格があるってことだけど、本当なんですか?」
富川さんに視線を移して問う。
「異能者の中で闘気を大量に有する人がいるんだけど、その中でも特殊な技を使える人を勇者と呼ぶんだ」
スキルは普通、MPを消費して発動するが、その技は闘気をメインに使うそうだ。
「特殊で強大な力で、より強い敵が討てるというので勇者と呼ぶようになったんだろうね」
「それじゃっ、このスキルを鍛えたらエンハウンスとか、エンハウンスが復活させようとしているなにかもやっつけられるんですね?」
聖が目を輝かせている。
あぁそういえば、君、そういうの好きだったな。
「そうだね。がんばってほしい」
富川さんがうなずいたら聖が「よしっ」ってガッツポーズした。
「わたし達でエンハウンスのたくらみを阻止しましょう」
すごい盛り上ってる聖を見ていると、どうにかできそうだって思えてくるから不思議だ。
人を引っ張り上げる引力、みたいなのがあるのかもしれないな。
もしも聖が勇者って呼ばれるような役割を果たさないといけないなら、俺らは彼女が力を振るえるように支えていこう。
(File05 吸血鬼の狙い 了)
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