洞窟に眠るもの
作戦本部の指令室に戻ってきたと視認した時、ほっと安堵が込み上げてきた。
どうにか生き延びたんだ、俺ら。
まさか不機嫌顔の月宮を見てほっとする時が来るとは思わなかったが。
いやきっと隣の富川さんや青井さんを見てほっとしたに違いない。
「大変だったね。犠牲者が出なくてよかったよ」
富川さんが労ってくれた。
俺が青井さんに連絡を取った後のことを教えてもらった。
ゲートのモンスター退治から戻った月宮とあちこちに指令を出していた富川さんに、俺らがエンハウンスと直接会うことになる、おそらく戦闘になると青井さんが伝えてくれた。
前にも聞いたが転移ゲートは大量のMPと闘気を使うので富川さんや月宮クラスの能力者が準備をしなければいけない。ゲート騒ぎのせいで強い異能者達のMPや闘気も満タンじゃないから時間がかかったそうだ。
で、パーティと顔見知りの管理者クラスのレッシュとリカルドさんが直接助けに来てくれた、という流れだ。
リカルドさんまで異能者だとはびっくりしたな。
「実はポーション作る時も、より効能を高めたいときは魔術使ってんだよな」
レッシュの補足にリカルドさんはうなずいた。
そんな裏技があったのか。
話は今日一日に起こったことへと移った。
アメリカ軍がリンメイを捕まえに来たことを説明する。
「なにか仕掛けてくるのは判ってたのよ。でもどこに手を出してくるかまでは判らなかったから先手は打てなかった」
どうしてわたしの管轄なのよと舌打ちする月宮に苦笑いが漏れた。
アメリカではイクスペラーは危険な存在だという認識らしい。だが彼らの力を軍事利用できると考えている。
なんともかの国らしいと言ったら、偏見か。
なので富川さんは、この一件についてあまりあちらに情報を渡したくないそうで、のらりくらりと追及をかわし、干渉してこないように交渉していたそうだ。
当然向こうがそれで納得するわけはなくて、上層部は交渉に応じるふりをして部下を送り込んできたのだ。「部下が勝手にやったこと」としてこの件の事情を知るイクスペラーを連れてくるように命じているのだろう。
「アメリカに関してはまだしっかりと交渉がまとまっていないからまた何かあるかもしれない。ジョージという男にも逃げられたし、気をつけておいてくれ」
富川さんが締めくくった。
「なんでリンメイアルか。なんにも知らないのにアホちゃうかアル。今度ジョージに会ったら制服のクリーニング代払わせるアル」
リンメイの恨み言に力が抜けた。
話はエンハウンスのことに移った。
ヤツが世界を変えると言っていたことを報告すると富川さん達は訳知り顔でうなずいた。
「ダンジョン内で見つかった文献とかを解析して判ってきたが、洞窟の奥にあってエンハウンスが狙っているのは、昔、異能者達が必死に封印した『何か』があるみたいだ」
エンハウンスは「それ」を「復活」させようとしているようだ。
「復活したら、人間の大半が殺されてしまうようなモノなんですか?」
聖が問うのに富川さんは「おそらく」とうなずいた。
ヤツはそれが何なのか知っているような口ぶりだったな。あれがはったりじゃないなら現状ではヤツの方がこちらより先んじてるのかもしれない。
『今のままではそちらに勝ち目は全くありませんよ?』
自信たっぷりなエンハウンスの顔と声が脳裏によみがえる。
思っていたよりも、ヤツの言葉は本当なのかもしれない。
だからといってあきらめるわけにいかないけれどな。大量に殺される側になるのも、その後に残る側になるのも嫌だ。
少なくともここにいる人達はそう考えているからダンジョン探索を指揮し続けてるんだろう。
俺らも、やるしかない。
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