世界意思の意思は判らない

 レッシュが「そうだ」と何かを思いついたみたいだ。

 有益な情報か? と思ったら。


「あんたらに余力があるなら手伝ってほしいんだけど」

「俺らも今帰って来たばっかりでMPも闘気もほぼないよ」

「それならば回復薬を渡しましょう」


 後ろから声がかかって振り向いたら、白衣を着た長身の西洋人がいた。

 直接会うのは初めてだけど判る。リカルド・ゴットフリート氏だ。薬品を扱う貿易会社の社長さんでレッシュの上司だ。


「今出来たたばかりのポーションです。レッシュについて行ってくださるなら皆さんで使ってください」


 リカルドさんがポーションが十個ほど入った箱を差し出してきた。ダンジョンで発見される魔石と同じで赤色がHP、青色がMP、緑色が闘気を回復するそうだ。色が違うと混乱するから魔石にあわせて作るようにしたという。


「行こうよ。ドラゴンが出て大変なことになってるんでしょ?」


 聖が言う。ヘンリーは静かにうなずいた。

 ラファエルが少し、リンメイが判りやすく難色を示したが、ドラゴンを倒せば追加で報酬が出るでしょうというリカルドの言葉に二人とも乗り気になったようだ。


「異世界の生物は倒すと消滅してしまいますが、生きている間に切断などで体から離れた部位を、相手が生きている間に異次元収納バッグに入れると残るようです。持ち帰っていただけたら私からも追加で報酬をお支払いさせていただきます」


 異世界の生物の部位は良質のポーションの材料になるそうだ。


 そういう仕組みなのかっ。よし! がんばって部位破壊だ!


「なんか黒崎君がすごくやる気になってるね」


 ラファエルが苦笑いしている。


 ふん、おまえには判らないだろ、異世界の生物からポーションが生成できるって事実がどんなに素晴らしいのかっ。


 ってことで、俺らはレッシュのドラゴン退治についていった。




 いやぁ、とにかくすごかった。

 レベルが違うっていうか。


 俺らに尻尾を任せてレッシュは一人でドラゴンの前に立って戦ってた。俺らにヘイトが向かないように挑発までして、そのうえで手まで切り取って。


 以前一緒に戦った時って、すっごく力をセーブしてたんだな。


「レッシュ一人で十分だったんじゃ?」

「いやぁ、倒すのはいけるけど素材回収までが難しくてさ。おかげでうまくいった。サンキュ」


 リカルドさんにできるだけドラゴンの部位を持ってきてほしいって言われてたから一人よりパーティの方が楽だった、って笑ってる。


「リカルドの『できるだけ取ってきてください』は『取ってこいよゴルァ』だからな」

「リカルドさんってそんな人?」

「おれに対しては」


 二人の愉快な関係を見た気がする。


 ふと、疑問に思う。

 レッシュみたいな強い異能者達がパーティの監督者なんだよな。月宮さんだって性格はアレだけど異能だけで言えばすごく頼りになりそうだし。


 どうして、彼らがダンジョンにもぐらないんだろう?


 俺は心に浮かんだことをレッシュに尋ねてみた。


「世界意思の影響だな。ある一定以上の強さを持つ異能者は奥に行こうとしても行けないんだ」

「世界意思って、世界を守ろうって意思のことだろう?」

「あぁ」

「おかしいじゃないか? こんなダンジョンを放ったらかしにしておくなんて、それこそ世界の危機じゃないか」


 指摘すると、レッシュは困った顔をした。


「そうなんだよな。その辺りはどうしてなのか、おれらにも判らない。とにかく、おれらには無理だからイクスペラーとして力に目覚めたての連中を集めて探索してもらってるんだ」


 今のところ、世界意思の阻害は今回の俺らのルートしか確認されていないらしい。


「俺らのところに結界が出たのは、どうしてだと思う?」

「うーん、考えられるのは、おまえらパーティがなにかのカギを握ってるのかもしれないってことかな」


 ダンジョンの謎を解くカギなのかもしれないし、エンハウンスの行動を止めるカギなのかもしれないとレッシュは言う。


 判らないことだらけだな。


 世界を守る意思がどうして、ダンジョン攻略を阻止しようとするのか。

 エンハウンスの目的もわからないままだ。


 もう一度、ヤツと対峙する必要があるのかもしれない。



(File04 ドラゴンの咆哮 了)

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