File05 吸血鬼の狙い

強引な似たもの親子

 結局、ダンジョンのドラゴンの咆哮で開いたゲートは全部で十三個もあったらしい。ゲートの中にはドラゴンをはじめ異世界の強力なモンスターがいて、本部の強い異能者達――パーティの管理人クラスだな――が退治に行かなければならないみたいだ。


 ゲートをすべて消滅させるまでダンジョン探索の指揮が取れないってことで、俺ら下っ端は待機する事になった。


 いつでも連絡がつながるようにしておくこと、って言われたけれど、それ以外はフリーだ。ただし、招集にはすぐに応じることという条件付きだが。


 なんて話を、いつの間にかパーティリーダーにされている俺に月宮さんから聞くことになったんだが。


 呼び出された直後にいきなり思い切り殴られた! しかも異能使ってるしっ。


「何するんだよっ?」

「怪我をさせるなと言ったでしょう」


 あぁ、美坂さんのことか。


「無茶言うなって俺も言ったよな?」


 思わず反論したが月宮さん、……こんな理不尽な監督者、心の中ぐらいもう呼び捨てでいいよな、月宮が眼光鋭く睨んできたから「はい、すみませんでした」と言いかえた。


「連絡する時に繋がらないとウザいから、これを渡しておくわ」


 スマホのような端末と、インカムのセットだ。空気中の魔力を電波のように利用していて、つながりやすいらしい。これだとダンジョン探索の途中でも連絡できるんだそうだ。


「今までは緊急連絡用でパーティにひとつだったけれど、人数分支給されたからいつも持っておくように」


 それは助かるな。




 さて、フリーになったわけだが俺は特に用事はないから本部にいるか。薬品やポーションの研究をしているリカルドさんのところで勉強させてもらうのもいいな。

 なんて考えてたら


「くろちゃきー。リンメイ家帰るから送ってアル」


 邪魔すんなし。


「おじさんに迎えに来てもらえばいいだろう」

「えー、リンメイ、くろちゃきに送ってほしいアル」

「リンメイちゃんが発情した。がんばれー」


 おい聖、それはどっちに対する応援だ。


「君らはどうするんだよ?」

「わたしも家に帰るよ。お母さんが迎えに来てくれるって」

「私は教会に戻って、新しく手に入れたハリウォンの大剣に祝福を授けていただく手配をいたします」


 武器に祝福を授けてもらうと攻撃力が上がったりするらしい。だからハリウォンの大剣を所属組織の「教会の剣」に送るそうだ。


「僕は本部で留守番だよ。あんまり外に出るなって言われてるし」


 ラファエルは父親に託された魔導書のこともあるし、彼自身がヴァンパイアに追いかけられてたから、それがいいかもな。


「俺も本部で薬品の――」

「くろちゃきはリンメイを送るアルよ」


 決定事項みたいに言うな。


「とにかく、本部とパーティ連絡用にこれを預かったから、何かあったらすぐに連絡するようにな」


 連絡端末、Eーフォンって名前らしい――を聖達に渡した。


「さ、くろちゃき、行くアル」


 リンメイに引っ張られてく。


 ……まぁいい。送るだけだ。

 それに、おばさんには一言、言っておいた方がいい事があるし。

 リンメイを後ろに乗せて、彼女の家に向かった。




「ほら、ついたぞ。おばさん呼んで来い。挨拶くらいする」


 バイクを停めてリンメイを促すが。


「寄ってってアル。今の時間ならちょうど晩御飯ヨ。ママの料理美味しいネ」

「いや、すぐ戻るし」

「黒崎くん。いらしゃいアル」


 玄関先でもめてたらリンメイ母が出てきた。

 若々しくて可愛らしいタイプの人だ。外見は。


「ご無沙汰してます。リンメイ送ってきたので、俺はこれで失礼します」

「そう言わず、夕食たべてくアルね」


 リンメイ母はリンメイより強引に俺を家へと引っ張ってく。

 可愛らしい女性ひとだけど、これでも力はかなり強い。俺の父とパーティ組んでたぐらいだからな。下手に逆らうのはやめておこう。


 それに、伝えたいことも伝えないと。


 夕食は豪華な中華料理コースかってほど大量だし、美味かった。

 食事が落ち着いたところで、本題を切り出す。


「ところでおばさん、謝謝シェイシェイはありがとうだろう? 娘に嘘教えたままにしちゃ駄目だと思うよ。俺らの腹筋が死にかけた」

「あらゴメンネ、謝謝」


 ご忠告感謝のありがとうだろうけど、謝罪の意味も込めてるような気がする。


 夕食の後、なにげにおじさんに酒を勧められたがバイクで来てるからと断った。だったら泊まっていけばいいって流れになりそうだったので、実家に行かないといけないからとさっさと引き揚げた。


「今度お父さん連れてくるよろし」

「多分来ないと思いますよ」

「それ残念ネ。今日楽しかたアル。また来てね」

「くろちゃき、またねー」


 やっと解放された。


 結構いい時間になったな。ここからだと本部に戻るより真琴さんとこの方が近いかな。


 結城ゆうき真琴まことさんは黒崎家の家政婦だ。俺も小さい頃からいろいろとお世話になっている。実家を出てから会う頻度は減ったけれど。

 にこにこと優しい笑顔の真琴さんを思い出して、ほっとする。


 訪問の旨を電話で伝えて、結城家にバイクを走らせた。

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