そんなにたくさん出てるのか
ドラゴンの冷却ブレスが迫る。無傷でかわすには間に合わないタイミングだった。
横っ飛びで離れながらも、どれだけダメージを食らうのかと覚悟をしていた。
だがブレスが俺の体に届くことはなかった。
「絡みつき引き裂け。『夜の茨』」
ラファエルの声がして黒い蔓のようなものが伸びてきた。ドラゴンには当たらなかったがブレスを横から薙ぐ形になって、結果として俺を守った。
地面に転がり、体を起こして「サンキュ」と一声かける。
……そういや、俺があいつを助けた時、結局礼とか言われてないな。
ふと思い出して苦笑してしまった。
さぁ有利なうちに反撃だ。
パーティの士気も上がったのだが。
ドラゴンが暴れまわる!
巨体を揺らして部屋の中を駆け回り、ブレスを吐きまくる。
直接攻撃の俺らだけでなくリンメイ達も体当たりを食らっている。
「もう、回復間に合わないアル。ラファエルさんも回復使って!」
「えー? 僕は魔法攻撃で援護した方が効率的に敵を倒せるから結果として――」
「うるさいアル。死にたくないなら回復するアル!」
「はい」
なるほど、ラファエルに指示を出すはああやって強く出た方がいいのか。あそこまでいくと恐喝かもしれないが。
リンメイの命令でラファエルも回復役になって、やっと「このままだとやられる」って不安が少なくなってきた。攻撃を食らっては治してもらうから、HPの増減がかなり激しくてめまいを覚えるが。あとは
俺らとドラゴンの死闘は、おそらく十分ぐらいは続いた。
双方息を切らし、ずたぼろになりながら死力を尽くした。
途中で回復の魔石すら使った。
「致命の一撃を。『破壊の赤眼』」
最初の頃より頭の位置が下がってるから顔の近くの急所を狙いに行ける。MPを追加で消費して誘導スキルを発動する。
力を振り絞ってジャンプすると、飛行技能を得たかのように短剣に引っ張られる。
便利だけど、使いどころを間違うと敵の攻撃の恰好の的になる。気を付けないと。
「ありったけの力を敵に。『とどめ斬り』」
「神に逆らう不届きものを討つ。『天誅』」
聖とヘンリーもスキルを発動して、ドラゴンの脚と胴を斬った。
「終わってくれ!」
思わず懇願の声が漏れるほどに消耗した俺の一撃が、ドラゴンの眉間を突き刺した。
苦しそうなドラゴンの声が、断末魔となった。
やっと、終わった。
着地したら安心して力が抜けた。床にへたり込んでしまった。
「くろちゃき、情けないアル」
「うるせー。おまえこそ座り込んでるだろ」
しばらくはみんな、荒い呼吸のまま動けなかった。
「黒崎くん、あれ……」
聖が、ドラゴンのいたあたりを指さす。
何か落ちてる。……剣だな。
そばに行って確かめる。両手で持つぐらいの大きな西洋剣だ。
ヘンリーを見ると、なんだか目を輝かせている気がする。
鑑定してみる。「ハリウォンの大剣」というらしい。
「なかなかよさそうな特殊能力があるぞ。大ダメージを与えると、そのダメージ量の一部を吸収して持ち主の怪我を癒すとか、あとは闘気を武器に注ぐことで聖の『なぎ払い』と同じように範囲攻撃ができる」
「それは素晴らしい……」
よだれでもたらしそうな顔になってるぞヘンリー。
ま、こんな大きな剣、ヘンリーにしか扱えないし、彼が持つことで問題ないよな。
最奥にワープゲートを見つけて、美坂さんを連れて俺らは地上に戻った。
本部が、すごく慌ただしい。誰もが走り回ってるって感じだ。
月宮さんのところに報告に行ったが彼女は留守だった。
「何が起こってるの?」
「あちこちにワープゲートが開いて、ドラゴンが出たんだよ」
聖のつぶやきに答えたのはレッシュだ。前みたいな余裕はない、切羽詰まった顔をしてる。彼も防具を装備していて、怪我はないけど戦闘の後と思われる痕跡もある。
「あんた誰アル?」
「おれはレッシュ・リューク。あんたらとは別パーティの監督者だ」
「月宮さんがいないんだが」
「あぁ、あの人もドラゴン退治に出てる。おれも今からもう一つのゲートに向かうところだ」
確認されただけで十個近くのゲートが出現したらしい。その中でも居住区の中や近い場所に出たものから優先的に対処しているそうだ。
「やっぱりダンジョンにいたドラゴンの鳴き声が原因なのか?」
「多分な。どうして異世界のドラゴンがこっちのダンジョンの比較的浅いエリアにいたんだか」
前の時はエンハウンスが関わっていそうだったが、今回もそうだろうか。
だとしたら、奴は一体何をしたいんだろう。
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