ドラゴンの咆哮が呼び寄せるもの

 部屋の中を確かめるまでもない。以前戦ったドラゴンと似た咆哮がまたダンジョンを揺らす。


 スマホに着信だ。やっぱりドラゴンの声と同時に一時的に電波がつながっているんだな。


 メッセージをちらりと確認して、思わず二度見した。


『奈良の山中にゲート』

『京都市内にも開いた』

『ドラゴン討伐に出られる者は指令室へ』


 探索隊の全体メッセージに驚愕する。これだけだとあってるかどうか判らないが、街中まちなかにゲートが開いてそこにドラゴンがいるということだろう。

 この奥のドラゴンの咆哮と関係あるのかもしれない。


「リンメイ、補助魔法は魔法防御もかけてくれ」

「ブレス対策アルね」


 部屋の入口で戦闘態勢を整える。

 部屋に入ると、ひやりと冷気が肌を撫でる。


 巨大な部屋だ。天井も高い。今までのどこか人工的な壁とは違って天然の洞窟のような岩に囲まれたそこは、青白い世界だった。凍っているわけではなさそうだがなんとも冷たい色合いだ。

 そして部屋の奥には、青色の西洋ドラゴンが堂々と待ち構えていた。


 リンメイがタブレットを用意しているが、おそらくろくなデータはないだろうな。逆に、こんなののデータがきっちり揃っているぐらいに出現している方が嫌だ。


「ブルードラゴン。攻撃方法は爪と冷気ブレスアル、けど、戦ったパーディ逃げてるから他にもありそうネ。逃げるなっつーの」


 最後の一言が辛辣だ。


「かなわなければ逃げるのも立派な選択肢の一つだぞ。生きてこそだ」

「そうアルけど」


 そんなやりとりをしていたらドラゴンがこっちに気づいて、威嚇の声をあげる。


「致命の一撃を。『破壊の赤眼』」


 ドラゴンの体のあちこちに赤い点と線が浮かぶ。


「大弱点は目のあたり。魔法攻撃で狙ってくれ。直接攻撃は胴体の中心を、無理なら手足と尻尾の付け根」


 伝えると、皆の了承の声が返ってくる。

 どこまでやれるか判らないが、できるなら倒したい。


 前衛の俺らは美坂さんのアドバイス通り三方向に散った。

 ラファエルとリンメイが攻撃魔法を唱え始める。

 聖がドラゴンの脚を、ヘンリーは胴体を狙ってる。ヘンリーは防御力も高いしHPも多そうだからな。彼がドラゴンの正面近くにいてくれるなら敵が後方に注意を向けることも減るので助かる。


 俺は尾の方へと回った。ちょうど付け根の近くに大きな弱点があるから、うまくいけば切断できないかと狙っている。

 尾を切断なんてゲームみたいだなと思うとちょっと笑いが漏れる。


 勢いよく振られた尾を跳んでかわし、弱点めがけて刃を振り下ろす。全体重を乗せた攻撃が急所を捕らえた。

 豆腐に刃を突き刺したような抵抗のなさ。本当に体に刺さったのかと不思議に思うくらいだが確実に急所を捕らえた攻撃にドラゴンが悲鳴をあげる。


 怒り狂ったドラゴンが前方にブレスを吐きつつ、急速に体をこちらに向けてくる。でかいくせに素早い。


 ヘンリー達にブレスがかかったみたいだがリンメイの魔法防御のおかげで大きなダメージにはなってないみたいだ。


 問題は俺の方だな。いわゆる「ヘイト」を取っている状態だ。

 ドラゴンの恨みを乗せた爪攻撃がビュンビュン飛んでくる。こんな巨躯から繰り出される全力攻撃をまともにくらったら一発でやられちまいそうだ。攻撃の軌道をしっかりと見極めてかわす。


「ありったけの力を敵に! 『とどめ斬り』」


 聖の凛とした声と刃が肉を断つ音がしたかと思うと、ドラゴンがかっと目を見開いて、絶叫を上げた。

 ドラゴンのHPがぐんと減った。


「わーい、しっぽせつだーん」


 俺が斬ってたところにさらに攻撃したか。パーティには喜ばしいことだが、俺にとってはアンラッキーだった。

 大ダメージが入ったショックで動きの変わったドラゴンの腕が俺の体を弾き飛ばした。


 空中で体勢を立て直す間もなく地面に叩きつけられた。何とか生きてるが、すぐに立ち上がって動くにはつらい痛みだ。

 敵の前で動けないのは致命的だ。なんとか体を起こすが、目の前でドラゴンが口を開いていた。


 おい、ちょっと待ってくれ。俺が尻尾を攻撃したらすぐにこっち向いただろう。聖が切断したんだからあっちに向いてくれよっ。


 願いむなしく口腔にエネルギーが集まり青白く冷たそうな光を帯び始める。まずは弱っているのにとどめをってところか。


 リンメイの防御魔法があるとはいえ、今の状態でブレスの直撃はまずい。

 必死に立ち上がる。


 ドラゴンがブレスを吐き出した。

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